雑誌「プレジデント」(2018年10月15日号)では特集「ビジネス本総選挙」にて、仕事に役立つ100冊を選出した。このうちベスト10冊を順位ごとに紹介する。今回は第5位の『嫌われる勇気』。解説者はユーグレナの出雲 充CEO――。

何のために働くか、幸せとは何か

今回のビジネス書ランキングで『嫌われる勇気』が第5位にランクインしたと伺って、嬉しいと同時に「1位を獲ってほしかった」と悔しく感じてもいます。なぜなら同書は、2011年3月に発生した東日本大震災以来、私が一番多く読み返している本であり、私の経営者としての考え方を変え、人生を支えてくれた本だからです。もはや私の「座右の書」といっても過言ではありません。実は、「アドラー心理学」が日本で注目されていた14年、プレジデント社から書評の依頼を受けて、初めて読んだアドラー関連本のうちの一冊でした。

同書を読んだとき、私の中に衝撃が走りました。長年探し求めていたものの、頭の中ではっきりとは形にならなかった考え方が、同書の中で明確に示されていたからです。その1つが、本のタイトルの通り、「嫌われる勇気を持つこと」でした。アドラーは、「自由を獲得したいなら、他人の意見に左右されてはならない。たとえ他人に嫌われようとも、勇気を持って自分の生き方や信念を貫け」というような意味のことを述べています。

私は東京大学在学中、外資系銀行のインターンとしてバングラデシュに行ったとき、貧しい子どもたちが飢えに苦しんでいるのを目の当たりにしました。それがきっかけで、栄養価が高くて安価な、画期的な食物を世界中に供給したいと考え、文学部から農学部に転部し、栄養の研究に熱中しました。研究の中で「ミドリムシ」の可能性を知り05年にユーグレナを起業しました。その後、東証マザーズ上場、14年からはバングラデシュの約1万人の小学生に毎日、ミドリムシ入りの学校給食を無料で配り、栄養失調から立ち直ってもらおうと活動を行ってきました。

ところが、14年12月に東証一部に上場した後、海外の機関投資家と意見交換する機会が増えたのですが、「バングラデシュに行く暇があったら、ほかの事業活動に時間を使え」「寄付する金を株の配当や投資に回せ」といった非難を、彼らから受けるようになったのです。私は大いに悩みました。巨額の資金を運用する外国人投資家は、市場で大きな影響力を持っており、「彼らの要求を無視できない」と考えたからです。しかし、その要求を受け入れれば、「ユーグレナが、ユーグレナであることを放棄する」ことにもつながります。私はアドラーの言葉を思い出し、私や社員たちが創業以来、守ってきた経営方針を堅持する決断をしました。そして、「食糧難に悩む子どもたちにミドリムシを配給するのは、ユーグレナの原点ともいえる重要な活動。それに賛同いただけないのなら、投資対象から外してもらってもかまわない」と、外国人投資家に宣言したのです。