治療実績は病院の実力を知る一つの指標。納得の治療を受けるには、病院と「治療法」選びが重要。手術数から実力病院を検証する。

 

手術でがん細胞を残らず取りきる

食道がんの根治治療は、1カ所に留まらずに食道やリンパ節に“多発”するがん細胞を手術で残らず取りきることに尽きる。

手術適応で検討されるのは、(1)がんの深達度、(2)リンパ節への転移、(3)がん組織が血液に入り込み肺や肝臓など食道から離れた臓器に転移する遠隔転移の有無。これに体力や、心臓・肺の既往症なども勘案される。食道がんの予後の鍵を握るのが、転移のしやすさを示す腫瘍の悪性度で、手術後に明らかになる。

手術は、切除と食道再建の二段構えとなる。長さ25センチほどの食道は、頸部、胸部、腹部に分かれるが、どこに腫瘍ができても3カ所すべてを切除する場合が多い。食道がんはリンパ節への転移が多いことから、転移がなくても、予防的に食道の周囲にあるリンパ節もすべて郭清する。そのリンパ節の数は、100以上に上る。

その後食道の下にある胃などを引き上げ、新たな食べ物の通り道をつくる。これが食道再建だ。

食道は、左右の肺と心臓に囲まれた体の真ん中に位置する。手術では、右の胸からメスを入れ、肺をよけながら20~30センチ先の深い位置で隣接する大動脈からの出血に細心の注意を払いながら食道をきれいにはがす。そのときには、食道と並行して走る気管に傷をつけて致命的な合併症を起こさないようにし、食道を伴走し、声を出す機能に関係する反回神経など細かい神経を損傷しないようにも十分配慮する。このように開胸・開腹手術は慎重かつ丁寧さが要求され、6~7時間にも及ぶことになる。

他のがんに比べ患者の数が少ないこともあって食道がんの手術を実施する施設は限られる。ランキングに、がん専門病院と大学病院が名を連ねるのは、手術の専門性と難易度が高いことが最大の要因だ。なかでも、50症例以上の病院には、「食道がんの最後の砦」として特に難易度の高い症例が持ち込まれる。

「MRIやCTでは、がんが周囲の臓器に食い込んでいるか否かをはっきりと把握できないことがある。そんな場合の手術適応の判断は、個々の医師の経験によるところが大きい」と順天堂大学医学部附属順天堂医院消化器外科上部消化管外科の梶山美明教授は語る。手術を望みながらも「手術は難しい」という診断が下されたならセカンドオピニオンを受けてみるべきかもしれない。