就職先が見つからなくて悩む学生は減っている

近年、わが国では初任給が上昇傾向にある。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査(初任給)」によると、2018年の大学学部卒業者の初任給(男女計)は20万6700円となり前年から0.3%増加した。大学院修士課程修了者、高専および短大の卒業者、高校卒者ともに初任給は上昇傾向がみられる。その背景には、わが国の景気が緩やかに回復してきたことに加えて、人手不足が深刻化していることがある。

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実際に就職活動の学生からは、何となくゆとりを感じる。学生にヒアリングすると、「就職先を探すこと自体に大きな苦労はない」という答えが多い。それだけ、多くの企業で若い労働力が必要とされているということだろう。1990年代から2000年代初頭の“就職氷河期”のように、就職先を確保することが難しいため将来を悲観する学生の数はかなり減っているようだ。

一方、多くの学生が現状に満足している様子は、やや気がかりだ。「若者よ大志を抱け!」とエールを送りたい気分になる。また若者のやる気を引き出すためには、わが国全体で、現状維持を志向するのではなく、新しい取り組みを後押ししていく必要があるだろう。

景気回復のかなりの部分が「海外経済」に依存

初任給は景気動向から無視できない影響を受ける。わが国の景気、具体的にはGDP(国内総生産)の動向が重要だ。GDPは、基本的に1年間に生み出される企業収益と給与所得の合計額と言い換えられる。GDP成長率が高まると、初任給をはじめ給与所得は上昇しやすくなる。

2012年12月、わが国の景気は底を打ち、それ以降、景気は緩やかな回復局面に移行した。今年11月まで6年間(72か月)にわたって景気は回復局面にある。景気回復は、わが国独自の要因だけに支えられたとは言いづらい。景気回復のかなりの部分が、米国を初め海外経済の要因に依存している。

近年のわが国経済に大きな影響を与えたのが、米国と中国経済の動向だ。2014年から2017年まで、大学学部卒の初任給は前年比1%前後の水準で増加してきた。この背景には、米国経済が緩やかな回復基調を維持し、世界経済が安定してきたことがある。

また、中国政府がインフラ投資やIT関連の投資を積極的に進め、中国の景気が徐々に持ち直したことも見逃せない。中国を中心にわが国を訪れる外国人観光客が増加してきたことのマグニチュードも大きい。わが国の地方経済の状況を見ていると、外国人観光客の多寡がその地域の景気に無視できない影響を与えている。