日本政府の方針は「4島返還」から「2島先行返還」へ

柔道着姿の安倍晋三首相とプーチン大統領が、組み合っている。青畳には「歯舞」と「色丹」の文字が太字で書かれ、その向こうには「国後・択捉 棚上げ」の言葉が見える。

11月16日付の朝日新聞のオピニオン面に掲載されたひとコマ漫画だ。テーマは「領土交渉戦」。ともに黒帯なのだが、飛び出した安倍首相の目がうつろに見える。それに比べ、柔道が得意なプーチン氏はしっかりと安倍首相をにらんでいる。北方領土問題での2人の勝敗を占ったうまい漫画である。

安倍首相は11月14日、シンガポールでプーチン氏と通算23回目の会談を行い、1956(昭和31)年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した。日本政府としてはこれまでの4島の返還を求める姿勢を堅持しながら歯舞と色丹の2島を先行(優先)して返還することを軸に交渉を進める方針のようだ。「4島返還」から「2島先行返還」へ。明らかにロシアに対する外交の方針転換である。

2018年9月12日、柔道のジュニア大会「嘉納治五郎杯」をロシアのプーチン大統領と観戦する安倍晋三首相(AFP/時事通信フォト)

意表を突いて自国の利益を求める

シンガポールで行われた今回の会談は、プーチン氏が9月の東方経済フォーラムで「前提条件なしに平和条約を年内に締結しよう」と提案してから初の会談だった。

あの東方経済フォーラムでの会談。突然の持ちかけをテレビのニュースで見ていたが、各国の首脳らが出席するなかでプーチン氏はぶち上げた。実にしたたかだった。

東方経済フォーラムは9月12日にロシア極東のウラジオストクで開催された。プーチン氏は突然、「今、思いついたこと」と話し出して提案した。「思いつきのアイデアだ」としながらも「ジョークではない」とはっきりと語った。

安倍首相は直前に演説を終えたばかりで、フォーラムに出席していた中国の習近平国家主席、韓国の李洛淵首相、モンゴルのバトトルガ大統領と並んで座っていたが、プーチン氏の提案を聞いてあぜんとした表情に変わった。

会場からは突然の“プーチン提案”に大きな拍手がわいた。会場にいた各国政府の要人らに巧みに訴え、その訴えが認められたわけである。この会場の拍手が、プーチン氏の外交手腕を物語っている。相手国の意表を突いて自国の利益につなげる。日本人として悔しいが、あれこそ本物の外交なのだろう。