金融危機は「ものづくり国家日本」の経済を急激に悪化させた。しかしようやく下げ止まりの兆しが見られるようになってきた。不況後の世界における日本の可能性を筆者は説く。

日本に悪影響を与えた3つの現象とは

景気が底なし沼の悪化だ、という悲鳴を聞くことが最近多い。先が見えない、計画なども立てられない、だから当面は「控える」という言葉をすべてに使わざるをえない、のだという。投資を控える、雇用契約の更新を控える、不要不急の支出は控える、などなど。

みんながそうした心理になって行動すれば、経済の状況は確実に悪化する。あちこちで、需要が減退するからである。

そのうえ、数字をベースに経済を見ると、「戦後最悪」という文字が躍るようなデータが昨年の12月頃から出てくるようになった。輸出、機械受注、鉱工業生産指数、どんな数字をとってもまさに「急落」である。そうしたデータを基にして先を予測しようとすれば、「急落」のデータをインプットするのだから、先行きの予想も「急落」になるのは当然である。

それではおかしい。単純に考えても、12月あたりからの落下のスピードのままで長いこと推移するのはきわめて考えにくい。経済には岩盤がどこかにはある。それに、在庫調整がこれだけのスピードで進めば、次の需要の反転を窺って動き出す企業が出てくる。

なぜ「急落」なのか、なぜそれも日本が先進国の中でもとくにきついのか(お隣の韓国も同様にきついようだが)、をわれわれは考えなければならない。そして、この落下のスピードがいつまで続くのかを考える必要がある。そうでないと、こうした混乱期にはいたずらに悲観的になりがちで、その悲観がじつは心理的収縮となって実体経済に必要以上の悪影響を及ぼすことになる。

たしかに昨年9月のリーマンショック以来、日本経済に悪影響を少なくとも短期的には与える3つの現象が同時に起きてきた。第1は、もちろん金融危機とそれに伴う世界的な需要の後退である。第2に、円高。これは日本の輸出産業を直撃して、多くの企業の減益や赤字の原因になった。トヨタ自動車の営業赤字4000億円という発表が、「トヨタよ、おまえもか」と日本人の心理に与えた影響は大きかっただろう。そして、第三に資源バブルの崩壊である。原油価格をはじめとして、資源価格が昨年6月をピークに急落している。それは、資源バブルに踊っていた国々での日本製品への需要の急減という形で、日本の産業にまず打撃を与えた。

しかし、世界的に見れば、リーマンショックの影響が小さい国と見られていたのが、日本だった。金融危機はアメリカと欧州が中心のものだったからであるし、日本はものづくり国家で、金融の後退が直接的に経済に影響を与える度合いが小さいからである。その日本でとくに景気の減退が激しかったのは、多くの人にとって意外だったろう。