経団連の中西宏明会長による「就活ルール廃止発言」が波紋を広げている。混乱を避けるため、現在の大学1年生以降も現行ルールを維持する方向での調整が進められているが、確定はしていない。就職活動の長期化を懸念する声もあるが、法政大学の田中研之輔教授は「企業でのインターンシップを早く経験した学生ほど、学業でも成果を出している。就活で学業がおろそかになるという指摘は事実に反する」と語る。「就活と学業」で本当に考えるべきこととは――。
2018年06月01日、選考活動が解禁となり、面接会場の建物に入る学生ら(写真=時事通信フォト)

新たな新卒採用への幕あけ

中西宏明・経団連会長による「就活ルール廃止」が波紋を呼んでいます。9月3日の記者会見では、現在の大学2年生が対象になる2021年春入社の新卒学生の就職活動について、採用選考に関する指針を策定しないことが表明されました。

この表明は、「選考時期の自由化」という新たな新卒採用への歴史的な転換を意味します。日本的雇用慣行を入り口で支えてきた新卒一括採用がその社会的な役目を終えることになったのです。ただし中西会長の発言以降、議論が続いており、政府などは現在の大学1年生以降も当面は現行日程を維持することを検討しています。

新卒採用の歴史的な過渡期に直面して、「採用活動の開始時期を自由化したら、就職活動が早期化・長期化し、学業の時間が侵食される」という強い反発が大学関係者から生まれています。さらに興味深いのは、大学生の中からも「就活ルール廃止のせいで、学業がおろそかになる」という声が多数聞こえていることです。

就活で学業がおろそかになる根拠はない

先日もゼミでこの話題を取り上げてディスカッションをすると、「4年生の春に内定をもらうのは手遅れになる。3年生の夏から就活を始めても不安だ。大学2年生や、入学直後の1年生から就活を始めなければ内定は獲得できないのではないか。もう、大学の勉強どころじゃない」という意見が学生から出ていました。

しかし、「就活のせいで、学業がおろそかになる」というのは、本当なのでしょうか?

この主張が正しいとするならば、「就活がないなら、学業がおろそかにならない」、「就活ルールがあれば、学業がおろそかにならない」ということが、立証されなければなりません。

私は9つの大学で10年間、これまで約5000人の大学生と接してきました。会社説明会、インターンシップ、エントリーシート、適性検査、個人面接、グループ面接、最終面接、という一連の就職プロセスでの、学生の苦悩、悩み、そして成長を大学側から継続的にみてきました。人事担当者への新卒一括採用の現状・問題点、戦略と展望に関するヒアリングも続けています。

大学側と企業側のそれぞれの立場や現状を踏まえた上での経験的なデータから言えるのは、「就活のせいで、学業がおろそかになる」というのは、<根拠のないデタラメでしかない>ということです。

学業をおろそかにしているのであれば、それは就活がある/ない、就活ルールがある/ない、に関係になく、何らかの理由でおろそかにしているだけです。

就活が理由ではありません。