「税率引き上げの再延期」を検討する必要もある

安倍首相は、2019年10月に消費税率を現行の8%から10%に引き上げると表明した。この発言は、これまでの予定を実現する覚悟を示したものだ。ただ、来年10月というタイミングが、消費税率引き上げの時期として適切か否かについては、専門家の間でも意見が分かれる。

2019年の後半以降、これまで世界を支えてきた米国経済の減速が鮮明化する恐れがある。それは、海外の要因に支えられてきたわが国の経済に無視できない影響を与える。

2018年10月16日、消費税率の引き上げを表明後、欧州外遊を前に報道陣の取材に応じる安倍晋三首相。(写真=時事通信フォト)

もちろん税率を引き上げることは、わが国の財政健全化に欠かせない。わが国では、少子化と高齢化が同時に進み人口が減少することは避けられない。医療費を中心に社会保障関係費は増加し、現役世代の負担は高まる。この状況が続くと、将来への不安心理が強まり、国内経済を縮小させてしまう恐れがある。

それを避けるためには、増税に関する国民の納得を得て税収を増やして財政の再建を図ることが重要だ。社会全体で、公平に税を負担する意識が必要になる。そのために、幅広い世代、所得階層から同率の税負担を求める消費税率の引き上げが選択された。

安倍政権には、消費税率引き上げ後の駆け込み需要の反動減を抑えるために、十分な景気対策を実行することが求められる。ただ、冷静に考えて、消費税率引き上げ時点で国内経済の減速懸念が高まっている場合には、情勢を客観的に見極めて再延期の可能性を検討する必要もあるだろう。

これ以上、「社会保障関係費」を削除するのは難しい

わが国の財政状況を改善させるためには、主に3つの方法がある。1つ目は徴税の強化、2つ目は歳出の削減、3つ目は経済成長で税収の自然増加を図ることである。

それぞれの方法にはデメリットや実現性の問題がある。徴税の強化は経済にとってマイナスの面が大きい。例えば、税収を増やすために所得税や法人税の引き上げを行うことは一つの案だ。ただ、所得税の引き上げは現役世代に一段の負担をかけることになる。可処分所得が減少することを受けて、現役世代の消費が減ることが考えられる。また、法人税率の引き上げは、国際的な法人税率の引き下げ競争に逆行する取り組みであり、企業がわが国で事業を行うことにマイナスに働くだろう。

次に、歳出の削減にも限界がある。平成30年度の予算では、歳出総額(約98兆円)のうち34%程度を社会保障関係費が占める。高齢化の進展などによって社会保障関係費は増加することが予想される。歳出の削減は容易ではない。それに加えて、社会保障関係費を削減し医療の自己負担額が引き上げられることは、人々の不満を増大させるだろう。自己負担の増大を受けて、現役世代が消費を抑制することも考えられる。また、政治家にとって社会保障のカットは自らの政治生命を左右する恐れもある。