アメリカのある会社で、慈悲深い経営者がセールスマンの歩合を思い切って高くしたところ、セールスマンが働かなくなったという。歩合が増えて懐が温かくなると、セールス・モチベーションはどう変化するのだろうか。仕事の満足感と動機づけの関連性を心理学の理論から見てみよう。

成果への満足感が自分を動機づける

2008年の7月に、NHKのクローズアップ現代で「失恋休暇登場!企業のホンネは?」という番組があった。ご記憶の方も多いであろう。この失恋休暇が面白い。失恋者の年齢によって日数が違うのだ。25歳以下は1日、26~29歳は2日、30歳以上は3日。“失恋の痛みは年をとるほどに深い”からだそうだ。さいわい、その会社では、この少し不名誉な休暇をとった者はまだ一人もいないということであった。番組では、このほかにも「バーゲン休暇」(バーゲンセールの雑踏をさけて買い物ができるようにと、夏冬1回半日ずつ)、ペット扶養手当(癒やしのためにペットをかっている社員4割に月1000円)なども紹介された。ある経営者は「こうした配慮がやがては全社員のモチベーション・アップにつながる」と、なかなかに鼻息が荒かった。

これらの珍妙な休暇や手当の狙いはただ1つ、“若者の早期退職防止!”である。その効あってか、ペット扶養手当をつくった会社では、若者の退職が減り、別の会社では大手メーカーから転入を希望する者もあるという。

このような奇策をひねり出した経営者の気持ちもわからないではない。“七五三”(中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が、入社3年以内にやめていくという意味)と揶揄されるほど若者の定着率が悪い昨今では、いくら経営者が社員のモチベーション・アップを図ろうとしても、肝心の相手がいなくなっているのでは話にならない。若者を一人でも多く引きとめられるなら、“失恋でもバーゲンでもペットでも、何でも面倒を見ましょう”という経営者の心情は悲痛でさえある。

失恋休暇、バーゲン休暇、ペット扶養手当―強いていえば、これらは“福利厚生施策の一環”ということになろうが、福利厚生施策への従業員の満足感は、仕事へのモチベーションにどのように影響するのであろうか“給料が多ければ満足し、少なければ不満を感じる”――つまり私たちは満足も不満もその出所(でどころ)は同じと考える。だが、アメリカの心理学者ハーズバーグ(Herzberg,F(*1))によれば、満足感と不満の出所はまったく別だという。ハーズバーグによると、満足感は、「仕事の遂行」またはそれに関連した要因(たとえば“困難なセールスに成功した”“努力が報いられて成果があがった”など)から生まれ、不満は「仕事の環境」(たとえば“有給休暇がとれなくてアタマにきた”“給料が少なくて働く気がしない”など)から生まれる、という。これが有名なハーズバーグの職務満足の「動機づけ(モチベーター)・衛生(ハイジン)要因理論」である。彼はどのようにしてこのような結論に至ったのであろうか。