世界のエリートはどんな教育を受けているのか。英国の名門私立学校「パブリック・スクール」は、富裕層の子どもたちを世界中から集め続けている。費用は最低でも年間500万円ほど。子どもたちは1歳から受験の準備を始めてるという。どんな世界なのか。その実態をリポートしよう――。

※本稿は、石井理恵子『英国パブリック・スクールへようこそ!』(新紀元社)の一部を再編集したものです。

学ぶのは“選ばれた”子どもたち

英国に私立校は2500校以上あるといわれている(撮影=トム宮川コールトン)

英国の就学生徒のうち、7~10%程度のみが学ぶパブリック・スクールは、知れば知るほどミステリアスでディープな世界。ここで生徒は、13歳から18歳までの5年間を過ごします(著者注:一部、11歳に入学して7年間在学する学校もある)。

かつて英国では、上流階級の子どもたちのみが教育を受けることができました。学校というかたちではなく、家庭教師を付けて勉強を教わっていたのです。

その一方で、教会やギルドが優秀な人材を育てるべく、裕福でなくとも、無償で学べる場を与えるために学校を開きました。そこでは、選ばれた子どもたちのみが教育を受けることができました。やがて、費用さえ出せば誰でも「公=パブリック」(限られた人材でなく、一般に門戸を開くという意味で)に入学できる学校となり、富裕層の子弟の学びの場になっていきます。

パブリック・スクールは、今や英国内外の王室関係者も入学することで知られていますが、そもそも王族は家庭教師を雇って教育をしていたわけで、王族のパブリック・スクール入学が注目されたのはウィリアム王子とハリー王子のイートン・カレッジ入学からでした。

私立校2500校のうち24校だけを指す言葉

パブリック・スクールの定義は、厳密にいうとヴィクトリア時代にまとめられました。はじめは「ザ・ナイン」(イートン・カレッジ、マーチャント・テイラーズ・スクール、ラグビー・スクール、ウェストミンスター・スクール、シュルーズベリー・スクール、セント・ポールズ・スクール、ウィンチェスター・カレッジ、チャーターハウス・スクール、ハロウ・スクール)と、さらにそれらを含む24校(表1参照)が値するとされてきました。

ヴィクトリア時代の定義による24校のパブリック・スクール(『英国パブリック・スクールへようこそ!』より)

現在ではその数は増え、全寮制男子校を指すなどの定義も変化し、パブリック・スクール関連のウェブサイト「タトラー・スクールズ・ガイド(Tatler Schools Guide)」では、20世紀に作られた新しい私立校(共学・女子校含む)もパブリック・スクールに含まれています。さらに「パブリック・スクール」という呼称すら最近はあまり使わなくなって、単純にインディペンデント・スクール(Independent School)と呼ばれることがスタンダードになりました。公立ではない、独立した私立学校という意味です。これには通学制も寄宿制も含まれます。

ちなみに現在、表にある24校を含めて、英国に私立校は2500校以上あるといわれています。