どんな人にも「老い」は必ずやってきます。以前はできたことが、ひとつずつできなくなっていく。しかし、そこで抗おうとするとドツボにはまります。49歳のプロトレイルランナー・鏑木毅さんは「悩む間もなく、無我夢中でやっていたら、いつのまにか強くなっていた」と振り返ります――。

※本稿は、鏑木毅『プロトレイルランナーに学ぶ やり遂げる技術』(実務教育出版)の第7章「これからも走り続ける:50歳からのリスタート」の一部を再編集したものです。

(写真提供=トレイルランニングワールド)

50歳で最高難度の挑戦をする

僕はもうすぐ50歳になります。50歳というのは人生の一つの節目です。「人生100年時代」の折り返し地点ですが、少し前までは「人生50年」が当たり前でした。

僕には、こういう人になりたいという歴史上の人物が何人かいますが、誰一人として50歳まで生きていません。

織田信長は49歳でこの世を去り、尊敬する坂本龍馬も、あれだけのことをしたのに、わずか33歳で没しています。そう考えると、僕はすでに生き過ぎているのかもしれない。

だったら、ここで思い切って開き直って、この50歳という歳を人生最高の時にしたい。40歳で退路を断って、UTMBに挑戦したときのあの感覚。全身の細胞がふつふつと沸き立つように、全神経を一つの目標に向けて集中させていくときのあの感覚を、もう一度50歳で味わいたい。このままでは終わらせない。

自分にプレッシャーをかけて、ふたたび最高難度のチャレンジをしてみたい。その舞台は、自分をここまで育ててくれたUTMBをおいて他にはありません。

アスリートが直面する“老い”の三重苦

「老い」と向き合うのはつらいことです。老化というのは本当に冷淡で、誰のところにも平等に訪れます。パフォーマンスが落ち、大したトレーニングをしていないのにいつまでも疲労が残り、ちょっと無理しただけですぐに故障するという三重苦。この三重苦といかに向き合っていくかが、いまの僕のメインテーマです。

40歳を過ぎてから、パフォーマンスの低下は如実に現れるようになりました。スタミナ強化のために1000メートル走を10本3分で走っていたのが、3分10秒になり、20秒になっていく。

疲労回復も同じで、負荷の高いトレーニングをしたあとは、翌日休めば体力が回復して、翌々日には同じトレーニングをできたのが、中3日くらい空けなければできなくなる。強度を下げてもリカバリーにかかる時間が長くなって、以前と同じ練習量はこなせない。そこを無理してしまうと、すぐに故障してしまう。この三重苦が波状攻撃のように襲ってきて、気持ちを萎えさせるのです。