結果を出せる人は、凡人となにが違うのでしょうか。40歳でプロトレイルランナーになった鏑木毅氏は「みんなから期待されると重圧で潰れてしまう。『誰かのために』走るのではなく、『自分のために』走るようにしている」といいます。極限状態を乗り越えるためのプレッシャーとの上手な付き合い方とは――。

※本稿は、鏑木毅『プロトレイルランナーに学ぶ やり遂げる技術』(実務教育出版)の第2章「集中力を極限まで高める:勝負どころのメンタルマネジメント」の一部を再編集したものです。

(写真提供=トレイルランニングワールド)

100キロ超のレースを何十回も完走してみて

「トレイルランニング」という競技をご存知でしょうか? ランニングと言っても、舗装された平坦な道路を走るマラソンとは異なり、起伏のある野山を駆けるスポーツ・レクリエーションです。僕はそのプロ競技者として活動しています。泥や木の根などの障害物を避けながら、自然の中を走り抜ける爽快感は他では味わえないものがあります。

2014年に日本能率協会総合研究所の実態調査によると、「トレイルランニングの参加人口は20万人余りで、今後参加が期待できる潜在人口は約70万人と推計」とあるように、日本でも広がりを見せています。ただ、世界ではもっと広く取り行われており、多くのレースが存在しているのです。

トレイルランニングの中でも、とりわけ100キロを超えるレースをウルトラトレイルと言います。僕はこのウルトラトレイルのレースを何十回と完走し、数々の地獄を乗り越えてきました。そこで得ることができた学びをお話ししたいと思います。

テレビに出て知名度が上がり、精神のバランスを崩した

勝負の世界で生きるアスリートである以上、多くの人から注目されるのはありがたいことですし、「頑張ってください」と激励されるのはうれしいことです。2009年にプロトレイルランナーになってからは、「スポンサーの期待にこたえなきゃ」、テレビに出て知名度が上がって「応援してくれる人の期待にこたえなきゃ」という気持ちが強くなりました。過度のプレッシャーから精神のバランスを崩したこともあります。

海外レースに出発する前の壮行会で、「次は優勝ですね」「鏑木さんなら絶対できます」「待ってます」とみんなから口々に言われると、本当にありがたいと思う一方、すごく憂鬱でもあります。「どれだけ多くの人たちに夢を売らなければいけないんだ」とネガティブにとらえてしまうと、気持ちがどんどんマイナスになってしまうからです。

「誰々のために頑張らなきゃ」というプレッシャーは、スタートの号砲が鳴る瞬間まで、形を変えて何度でも襲いかかります。「応援してくれるあの人のために」「お世話になったあの人のために」「スポンサーのために」「テレビ番組をつくってくれる人のために」「サポートしてくれるスタッフのために」「支えてくれる家族のために」……、考えれば考えるほど、自分の肩に乗る人の数が増えていき、重圧でおかしくなってしまいそうです。