住友商事の新社長兵頭誠之氏はワークライフバランスに悩み、会社を辞めたいと周囲に相談したことがあった。だがインドネシアでの電力事業に関わり、考えを変えたというだ。当時の経験から、兵頭社長は就任時に「夢を持とう」というメッセージを出した。「これからの商社」は、どんな夢を実現していくのか。本人に聞いた――。

2018年3月期の連結純利益が過去最高の3085億円となり、15年3月期の赤字転落からV字回復を果たした住友商事。その追い風を受け、1兆3000億円の投資を盛り込む中期経営計画を牽引するのが18年6月に就任した兵頭誠之社長だ。

兵頭氏はインフラ事業部門の出身。30代半ばで参画したインドネシアの石炭火力発電事業は、通貨危機の影響で工事が中断するなど困難を極め、第1号機の稼働が契約締結から11年後という伝説的なプロジェクトとなった。前任の中村邦晴会長が「諦めずにやり抜く胆力がある」と評した人物像とは。

――就任後、社員に訴えてきたことは何か。

住友商事社長 兵頭誠之氏

【兵頭】1つは、熱意をもって一生懸命に仕事をやり切ること。これはきれいごとでなく、商社の仕事では基本中の基本。私が最初に配属されたのは中東の電力インフラを担当する部署で、当時は住友商事が弱い分野だから各地でほとんど相手にされなかった。それでも職場は活気があり、深夜3時、4時まで働いて、よく酒も酌み交わした。まさに体力勝負で、いつか見返してやろうという意気込みがあった。いまでは考えられない働き方だが、熱意がなければ困難な仕事を乗り切れないのはいつの時代も変わらない。

――キャリアのターニングポイントとなった出来事は。

【兵頭】入社5年目にヨルダンで最初の海外駐在を経験した。自分が入札した発電事業の案件で、現場の所長を任せてもらった。しかし現地は食べ物、飲み物にも事欠く岩だらけの土壌で、日本人はただ1人という過酷な環境だった。そこで3年を過ごして帰国すると、昭和が平成になっていて浦島太郎のようだった。赴任直前に生まれた娘は、見知らぬおじさんが家にいると怖がって抱っこもさせてもらえなかった(笑)。