いまだに「手書き信仰」が根強い日本。芳名帳の記入で「恥ずかしい思い」をした人は多いはず。大人になって“子どもっぽい”字を書いていると、字の巧拙で人格をも左右されかねない。〈美文字練習帳〉にチャレンジ、ペン字教室にも通った灘高・東大卒『字が汚い!』著者の成果は――。

「手紙で誠意を見せる」ペン字練習帳に挑戦

子どもの頃から字はヘタだったが、大人になれば自然と大人っぽい字が書けるようになるだろうと漠然と思っていた。ところが実際は、大人になっても子どもっぽいまま。それでもワープロが普及しだした頃に社会に出たので、いち早くワープロを買い、原稿を書く仕事などはそれで済ませてきた。しかし、日本ではまだ手書き信仰が根強い。冠婚葬祭時の芳名帳の記入など、手書きで書かなければならない場面では、汚い字で恥ずかしい思いをしてきた。

写真=iStock.com/golubovy

汚い字をなんとかしなければと本気で思ったのは、仕事で大物漫画家あてに企画への協力をお願いする手紙を認(したた)めたときだ。書類はワープロ打ち、連絡はメールが日常になっているとはいえ、ここぞという場面ではやはり手書きの手紙で誠意を見せたいところである。が、万年筆を手に便箋に向かい1枚目の途中まで書いたところで、「これはダメだな……」と絶望。結局、パソコンで打ったものを送ってしまった。いくら丁寧に書いたつもりでも分別ある50歳の大人の字にはとても見えず、筆跡そのものが子どもっぽく拙くて、逆に失礼と思ったからだ。

私の年頃だとこれから葬式の芳名帳や香典袋の記名などに備える必要もある。うまくなくても、せめてもう少し“大人っぽい字”が書けるようになりたい。そんな思いで、まずは市販のペン字練習帳から取り組んだ。

最初は一番売れ筋の『30日できれいな字が書けるペン字練習帳』に挑戦。1日目は「あ」から「ぬ」までのひらがなの練習で、薄く印刷されたお手本をなぞることから始める。お手本の文字には「なめらかに」「まるみをつける」など、注意点が書かれている。「一文字書くごとにお手本と見比べて確認しましょう。あわてず、ゆっくり書くことがポイントです」との指示もあるが、思うようには書けない。たまにサボりつつも、ほぼ毎日「心よりお詫び申し上げます」「ボランティアのスタッフ」といった言葉を一生懸命書き続けたが、期待したほど上達しなかった。