医療費の負担を抑えるには、なにがポイントになるのか。「プレジデント」(2017年2月13日号)では11のテーマに応じて、専門家にアドバイスをもとめた。第1回は「がん治療」について――。(第1回、全11回)

がん告知で思考が止まり根拠のないエセ医学に……

一口にがんといっても、さまざまな種類が存在します。体のどの部位にできたのか、進行状況がどうかによって治療方針は個別に異なってきます。

写真=iStock.com/Nikada

治癒を目指したときに、胃がん、大腸がんの場合は手術で治せるがんの代表例といってもいいでしょう。また、抗がん剤に対する感受性の強い白血病のような血液のがんや男性の精巣腫瘍などは抗がん剤の投与のみで治癒を目指します。一方、食道がんや頭頸部がんでは、手術と同等な利益が得られるのであれば、形態や機能を温存できる放射線治療も念頭に置くべきです。

がんは早い段階で発見できれば、かなりの確度で完治が期待できます。その場合、根治性を維持しながら、できるだけストレスの小さな治療方法も選択可能となります。内視鏡的切除がそれに相当します。

ここで求められるのが患者さんのリテラシー、すなわち、情報を正しく吟味し、大切な意思決定に生かしていく能力です。そうでないとがんを告知されたときに思考が止まり、根拠のない安易なエセ医学に引っ張られかねないからです。時間とお金のみが一方的に奪われ、後戻りのきかない後悔を抱えている患者さんは少なくありません。

がん治療では、標準治療とか先進医療という表現が使われます。標準治療は、安全性と有効性が臨床試験でしっかりと証明された「推奨レベルの最も高い最良治療」とされており、日本ではほとんどにおいて保険診療が可能です。一方で、アメリカで標準治療を受けようとすると、個人でいい保険契約をしておかなければ、非常に高額な治療費が請求されます。結果的には、日本のほうが恵まれていると考えてよいでしょう。一方、先進医療は現段階ではまだその有用性が十分に確立されていないテスト段階の暫定治療なので、治療費は自己負担となるわけです。