イライラしたり、体調不良も多い――。ストレスは目に見えないだけに、正体不明な化け物のようだと怯えていないだろうか。ストレスの実態を知り、行動法を学べば、誰もがよりストレスフリーな生活を手にすることができる。

私もストレスに振り回されていた

人間の生活は、日々ストレスと無縁ではいられません。かくいう僕も若い頃はずいぶんストレスに振り回されてきたものです。当時の僕は神経質で人見知り。自分の理想の生き方と、現実との狭間でも悩み、イライラしたり体調不良も多かった記憶があります。

しかし、30代を過ぎた頃でしょうか、脳科学と出合いストレスのメカニズムを知ることで、自分のメンタルをだいぶコントロールできるようになりました。ストレスの実態を知り、行動法を学ぶことで、誰もがよりストレスフリーな生活を手にすることができるのです。ここではいくつかのステップにわけて解き明かしたいと思います。

脳科学者 茂木健一郎氏

まず基本的なおさらいです。なぜ人間はストレスを感じるのでしょう。人間の脳はストレスを感じると、ノルアドレナリンやドーパミンといった神経伝達物質が過剰に放出され、前頭前野の機能が低下します。

「異常なし」の体調不良の原因とは

前頭前野は脳の進化の中でも比較的新しい領域で、記憶や感情のコントロール、洞察力や判断力といった高度な機能を果たしています。ここが低下することで、前頭前野よりも進化的に古い扁桃体などの脳領域が活発化し、動物としての本能的な恐怖や不安感、衝動性などが強まってしまうのです。

動物にとって一番のストレスは何でしょう。それは生存を脅かす危機的状況です。

肉食獣に襲われる(自分より強い相手に威圧される)、テリトリー争い(社内での権力争い)、メスをめぐるオス同士の戦い(恋愛をめぐるもつれ)などに対して、僕たちは一番のストレスを感じるわけです。そんなとき、血中内ではストレスホルモンであるコルチゾールが強まり、心拍数や血圧の上昇、食欲の低下などが起こります。「どうも最近めまいがする」「食欲がわかない」「夜眠れない」といった身体的不調を感じるのはそのためです。僕自身も若い頃はよく健康診断でひっかかったものの、再検査すると何も異常は見つからない。つまりストレスからくる不調だったんですね。

▼ストレスは脳の2つの部位が生み出していた!
【前頭前野】
記憶や感情のコントロール、洞察力や判断力など高度な機能を果たす
<前頭前野の機能低下>
・やる気のなさ
・思考力・判断力の低下、興味・関心の減退

→扁桃体の活動にブレーキをかける機能が低下
【扁桃体】
本能的な恐怖や不安、悲しみなどの情動に関わる領域
<扁桃体の過剰活動>
・悲しみや憂鬱
・不安、焦燥などの症状が出現