政府の「働き方改革」は、残業規制や同一労働同一賃金を謳っている。本当に実現できるのだろうか。日本総研の山田久主席研究員は、「改革が中途半端になれば、中長期的な生産性を押し下げることになる。それを避けるにはドイツの人材育成や雇用ルールに学ぶ必要がある」と指摘する――。(前編、全2回)

働き方改革関連法成立は出発点

7月22日に閉幕した第196回通常国会で関連法案が成立し、いよいよ「働き方改革」が実行段階に入る。今回の目玉は「罰則付き残業上限規制の導入」と「同一労働同一賃金の実現」であり、それらは企業業績が近年絶好調を続けているにもかかわらず、労働者保護がおざなりにされてきたことへの対応である。

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加えて、人口減少・高齢化が急速に進むなか、時短を進めることで生活上の制約のある人材が能力を十分に発揮でき、働き方が違っても公平に処遇されるために必要な改革を推し進めるように、企業の背中を押すという内容にもなっている。

2つの目玉施策は長年議論されながら実現できなかったテーマであり、今般の政府主導の取り組みは高く評価されていい。

もっとも、今回の内容は端的に言えば「欧州型」の仕組みのわが国への導入である。というのは、今回の目玉施策である「残業上限規制の導入」も「同一労働同一賃金」も共に欧州のワークルールであるからだ。ここで問題になるのは、労働時間規制や賃金制度はそれぞれ独立に存在するものではないことである。それらはトータルな雇用システムの中で互いに整合的に位置づけられるものであり、さらには教育・社会保障・商取引慣行といった、さまざまな経済社会の仕組みとも密接に連動している。一つだけ改革しようと思ってもうまくいかないし、逆に一つの改革が他の改革を呼び起こすことにもなる

デュアルシステムというドイツの人材教育

欧州、例えばドイツで短い労働時間と高い労働生産性が両立できている背景には、わが国と異なる教育・人材育成の仕組みや、不採算事業の整理に伴う納得的な雇用調整ルールがあるからである。すなわち、ドイツでは、企業実習が組み込まれたデュアルシステム(理論教育と職業教育を同時に進めるシステム)や6週間から6カ月程度のインターンシップなど、学生でいる段階で実務能力が身に付く仕組みが存在する。

具体的にみれば、ドイツの若者は10~12歳の時点で基幹学校、実科学校、ギムナジウムの3種類の学校のいずれに進むかを選択し、大学進学を念頭にギムナジウムに通う学生以外は、基幹学校や実科学校を終了した後、職業学校に通学する。そこで行われているのがデュアルシステムによる職業教育訓練であり、企業と職業訓練契約を結び、週1~2日を職業学校での理論教育、残り3~4日を企業内での訓練が行われる(※1)