中国の自動車産業で大きな構造変化が起こりつつある。日本総研の程塚正史マネジャーによれば、変化を主導しているのは、テンセント、アリババ、バイドゥといった中国のIT系事業者だ。このうちライドシェア最大手の滴滴出行(DiDi)は、米欧の完成車メーカーや大手部品メーカーで構成される「洪流連盟(D‐Alliance)」を設立した。日米欧とは違う新たな自動車グループのポテンシャルとは――。

新エネルギー車普及から車両活用サービスへ

中国では、今、車両を活用したモビリティサービスの進化が著しい。その変化を主導するのは、テンセント、アリババ、バイドゥといった中国の大手IT企業系の事業者だ。これらの事業者は、従来の業界の枠組みを壊すだけでなく、車両というモノ自体にも影響を与えようとしている。サービスの進化を起点とする自動車業界やその製品への影響を解き明かしてみたい。

中国の自動車市場は規模で世界1になったがゆえに関心は高いものの、現時点では市場規模の大きさや、新エネルギー車(主にEV=電気自動車あるいはPHEV=プラグ・イン・ハイブリッド)の爆発的な普及に注目が集まりがちだ。しかし今、その次の段階として中国政府や企業が目指しているのは、車両を活用したサービスの進化である。

サービスの進化に向けて、中国には独特の強みがある。スマホ普及率やスマホ決済利用頻度の高さ、個人データ取得に対する意識面でのハードルの低さ、それによる膨大なデータ量の確保、そのデータを解析しサービス化するシステムを構築できる大手IT企業の存在だ。それらを受けて、データ活用によるサービスを基幹産業に育てようとする政府の方針がある。

車両関連サービスは、自動車業界とIT業界のいずれもが新事業を立ち上げようとする領域である。両者のぶつかり合いの様相は国・地域によって異なる。日本では自動車業界が圧倒的な力を持っている。米国ではグーグルやアマゾンのようなIT企業と、GMやフォードのような自動車企業が互角のせめぎ合いを見せる(図1)。

中国では、地場の自動車メーカーに比べて、大手3社を中心とするIT企業が強大なことが特徴だ。完成車メーカーは政府系、民営系に分散しており、最大手の上海汽車でも時価総額を比べるとテンセントの8分の1程度となる。強大なIT企業がサービス事業者を資本面で傘下に入れたり、ベンチャーを立ち上げさせたりしており、さらに大手IT企業各社の本体も自動車関連サービス事業部を立ち上げている。