これからビジネスマンはどう変わるべきか。「プレジデント」(2018年4月30日号)では、特集「いる社員、いらない社員」で、大企業のトップ29人に「人材論」を聞いた。今回は、三越伊勢丹ホールディングスの杉江俊彦代表取締役社長のインタビューをお届けしよう――。

最初に配属されたのは"傍流"のリビング部門

売上高1兆2534億円(2016年度実績)で百貨店業界トップの三越伊勢丹ホールディングス。17年4月に社長に就任した杉江俊彦氏は、社内での対話を重視する路線を貫く。「爆買い」に象徴されるインバウンド需要が一巡し、アマゾンをはじめとするネット通販の台頭も著しい。そうした厳しい環境下、自社の強みをフルに発揮して状況を好転できるかどうかは、一人ひとりの社員の肩にかかっている。

三越伊勢丹ホールディングス 代表取締役社長 杉江俊彦氏

――百貨店業界は「上意下達」の伝統が長らく続いてきました。そうしたなかにあって、杉江社長は対話重視や人材を大切にする姿勢を強く打ち出していらっしゃいます。それらは、ご自身の仕事のなかで涵養されてきたものなのでしょうか。

入社して最初に配属されたのは、食器や雑貨を取り扱うリビング部門でした。実は、当時の百貨店は婦人服が花形部署で、リビングはいわば傍流だったのです。しかし、逆に上下関係は比較的ゆるやかで、間に入る人も少なく、とても風通しのよい環境でした。直属の上司は「部下が腹落ちしないかぎり、仕事は上手く進まない」といっていて、私もその考えを基本的に継承しています。

また、大きな仕事も任せてもらえ、百貨店に長年勤めていて一回も改装に携わったことのない人がいるなか、幸運なことに私は合計4回も担当してきました。そのうち2回がリビング部門で、2年目に松戸店に異動になり、リビングのフロアの改装にかかわりました。しかし、どうしても上手くいきません。数年後に新宿本店のリビングの改装にも携わりましたが、やはり力不足で満足のいく結果は得られませんでした。

――とはいうものの若いときの失敗は、得てして成長の糧になります。

なぜ成功しなかったのかに気づいたのは、営業企画部(現・営業戦略部)に移ってからのことでした。そこで初めて何事にも理論的な裏付けが重要で、そのために必要なデータを収集・分析し、仮説を組み立てていくという手法を学んだのです。それを活かして「ファッションの伊勢丹」との評価を得るようになった新宿本店1階フロアの大改装、そして地下食品フロアの改装の成功に結びつけることができました。