苦境に立たされたとき、どうやって抜け出せばいいのか。“車椅子の天才”と呼ばれた物理学者のホーキング博士は、若くしてALS(筋萎縮性側索硬化症)を発病し、その絶望からうつ状態になったという。だが博士はそれでは終わらなかった。編集者の桝本誠二は、博士の言葉から「自分の夢や目標に向かっていくエネルギーが死を遠ざける。自分が純粋に何をやりたいのか、把握することが大切だ」と説く――。

※本稿は、桝本誠二『ホーキング 未来を拓く101の言葉』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

(写真=AFP/時事通信フォト)

「人生100年時代」にホーキングに学ぶ

近年、人生は100年時代と言われるようになった。政府も「人生100年時代構想」と称し、“人づくり改革”を検討している。その中では、より高齢化社会になることを想定し、リカレント教育や高齢者雇用の促進などが議論されているのだ。

教育システムや雇用の受け皿ができようとも、それだけでは長寿社会を楽しむことはできない。どうしても病気や老化を避けて通ることはできないからだ。だからこそ、これからは、今まで以上に、「どのような苦境に立たされようとも、人生を謳歌するための心構え」が重要となる。

“車椅子の天才”ホーキング博士は、若くしてALS(筋萎縮性側索硬化症)を発病、余命2~3年と宣告されたが、それから55年を生き抜き宇宙の謎に挑戦し続けた。その人生から、人生100年時代を生き抜くヒントを考えてみたい。

突然のALS宣告で極度の鬱を発症

ホーキングが、少しずつ体の自由が奪われていったのは、オックスフォード大学からケンブリッジ大学大学院に進学する1年前あたりだった。なんでもない段差につまずいたり、平地で転んだりしたため、精密検査を受けた。するとALS(筋萎縮性側索硬化症)と診断されたのだ。青天の霹靂に21歳のホーキングは絶望した。

極度のうつ状態に陥り、部屋に引きこもった。酒をあおり、ワーグナーに浸っていたという。若くして突然、余命2、3年と告げられたら、誰でも自暴自棄になるだろう。しかし、ここから天才物理学者との異名を持つほどになる道のりが始まるのだ。

「難題に打ち勝つには星を見上げてみること」

そのきっかけは、ある少年の死だった。彼が白血病で亡くなる姿を目の当たりにして、「どのみち死ぬ運命なら、多少はよいことをしたい」と思い直したのだ。

それでも病は徐々に彼の体を蝕んでいく。これまでは自由に動き回れた体の筋力が失われ、歩行困難になり車椅子の生活が始まった。顔の筋力が弱まり、まともに話せなくなった挙句、気管切開をされ、永遠に言葉を失った。

そんなホーキングは、ロンドン・パラリンピックの開会式で「難題に直面した時でも、足元を見ずに星を見上げてみよう」という言葉を世界に発信した。

「涙は足元に落ちるが、顔まで足元を向いてしまえば、輝く星が見えない。たとえ、難題の前に心が折れそうになったとしても、星を見上げよう。失敗しても気にすることはない。空を見上げ、諦めず、ベストを尽くせば、必ず道は拓ける」。こんな思いを持っていたのではないだろうか。この言葉は、まさに彼の生き方を表している。