定年後の60~74歳までの15年間は、元気で好きなことができる「人生の黄金期間」。このとき充実した第2の人生を送るには、50代から準備しておくことが重要だ。8人の実体験をお伝えしよう。5人目は「年商4000万円」という61歳のケースについて――。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2017年11月13日号)の特集「金持ち老後、ビンボー老後」の記事を再編集したものです。

平尾正裕さん 61歳 プラムフィールド社長
買受:2012年 形態:有限会社 買受資金:1500万円 従業員:正社員3人とアルバイト数人 売上高:年商4000万円

JR代々木駅から徒歩1分、路地の少し奥まったところにあるドイツビール専門店の「タンネ」。約40席の店内は満席状態で、オーナーの平尾正裕さんは「9月の売り上げは前年同月を大きく上回りました」と顔をほころばせる。

ビールを注ぐ平尾さん。銘柄によってグラスも替える奥が深い世界なのだ。「これからもドイツのビールのおいしさや食文化を伝えながら、みんなが集まり楽しんでもらえる場を提供していきたいです」と笑顔で語る。

現在61歳の平尾さんは、日本ヒューレット・パッカードの広報担当部長でもある。2016年定年退職し、再雇用された。同社は副業公認で、平尾さんは2012年に前オーナーから店を引き継いで“2足の草鞋”状態に。「17年の10月1日は私がオーナーになって6年目の記念日なのです」と振り返る。

00年、自宅を代々木に引っ越したのを機に、週3回ほど通う常連になった。11年頃、高齢の前オーナーが引退を口にしたことから、平尾さんが後を継ぐことに。当時56歳。運営会社である「プラムフィールド」の譲渡費用の1500万円は、貯蓄から捻出した。

「かつて暮らしていた米国の街に、おいしい料理とお酒を提供する素敵なお店がありました。いつか自分も同じような店を持てたらという気持ちがあったことが、タンネの引き継ぎにつながったのだと思います」と平尾さんはいう。

飲食店経営に興味を持つビジネスパーソンも少なくないだろう。しかし、イチから立ち上げるには相当の資金が必要で、リスクも高い。その点、店を丸ごと、従業員と顧客基盤も継承できるというのは大きなメリットだ。タンネは新宿に近い激戦区で年商4500万円を維持していた。しかし、飲食業は参入障壁が低く競争は苛烈だ。