「連続起業家」の元祖と呼ばれる千本倖生氏が、新著『あなたは人生をどう歩むか』(中央公論新社)を出した。千本氏は新卒で日本電信電話会社(現NTT)に入るも、42歳のとき第二電電(現KDDI)の創業に参画。その後もイー・アクセス、イー・モバイルを創業し、現在は再生可能エネルギー会社「レノバ」の会長を務める。なぜ日本はかつての輝きを失ってしまったのか。千本氏は「依然として『大企業勤め』を志向する人たちが多い。それでは日本の活力も、人生の充実も、遠のいてしまう」という――。(聞き手・構成=安井孝之)
レノバの千本倖生会長

挑戦したからこそ日本経済に少しは貢献できた

【安井】10年ぶりに本を書かれました。著書の「はじめに」では「次世代のリーダーたちに残す遺書でもあります」と書かれています。日本の現状や日本のビジネスパーソンに対してどんな思いをお持ちですか。

【千本】日本の現状をみるととても残念な気持ちでいっぱいです。日本は米国と中国という大国のはざまで存在感を失っているように思います。

私が働き始めたのは50年ほど前、1960年代の半ばです。そのころ日本は開発途上国の状態から抜け出し、すごい勢いで発展していきました。その後も発展しましたが、バブル経済が崩壊した90年初頭をピークにその後は下り坂から抜け出せません。

高齢化、少子化、財政赤字などと暗いニュースばかりに目が行きますが、私は日本の可能性はまだ残っていると信じています。20代、30代の若者の生き方次第で日本は再び活力を持ちうると思っています。

【安井】千本さんは連続起業家と言われるように次々と新しい会社をつくられてきました。その経験は貴重です。

【千本】私の人生を振り返ると人の10倍ぐらい苦労し、10倍ぐらいの失敗もしてきました。苦難と失敗の歴史が私の人生です。でも多くの苦難と失敗があったから今があります。

NTTに対抗してつくった第二電電はKDDIに育ち、イー・アクセスはソフトバンクに買収され、ソフトバンクの収益の柱の一つになっています。日本が下り坂に入った中でも、リスクを果敢に取り、挑戦したからこそ日本経済に少しは貢献できたと自負しています。

私のように挑戦した人たちは数多くいらっしゃると思いますが、その数は日本ではまだまだ少ない。大きな会社に守られて生きるよりも、自分の人生を自分の判断で選択し、生きる方が素晴らしいと思う人がもっと増えれば、日本の社会は活性化し、再び輝きを取り戻すはずだと思います。