僕が渥美先生から教示されたもう一つの大切なこと、それは「流通革命」です。先生が目指されていたのは、経済の民主主義化です。経済はいまだ国家に統制されており、本当の意味での民主主義にはなっていない。士農工商という江戸時代のシステムがありますが、いまだに商は一番低い位置に属している。それを底上げする。「流通革命をせよ」というのが、渥美先生が残してくださった言葉です。

ニトリはすべての過程でコストダウンに挑む!
図を拡大
ニトリはすべての過程でコストダウンに挑む!

ニトリは家具を中心としたホームファニシング全般を扱っていますが、ただ販売をしているだけではありません。材料の仕入れから製造、流通、販売、配達まで、すべてを自社で行っています。

日本の給与の高さは世界一です。そこで製品を作っていても絶対に安い商品は作れません。そこでインドネシアやタイ、ベトナムなどに、100%ニトリ出資の自社工場をもち、製品の流通もすべて自社で行うことにしました。「革命の旗手たるには、海外に出よ」です。これなら仲介業者に払う余計なコストもかからず、低価格の商品を実現することができる。

その代わり、品質には徹底的にこだわっています。いくら安価でも、「安かろう、悪かろう」では話にならない。一度はニトリ製品を買ってくれても、商品の質が悪ければ二度目の購入はありません。

「ニトリ憲法」というものがあります。

「一に安さ、二に安さ、三に安さ、四に適正な品質、五にコーディネート」というもの。

一から三までがすべて「安さ」というのは、仮に二番目に「適正な品質」がきてしまうと、社の方針が変わったときに簡単に入れ替わってしまう危険性があるからです。品質を上げるために一番簡単な方法は、価格を上げることです。しかしそれでは、「誰もが買える」商品ではなくなってしまう。だから一から三まではすべて「安さ」にしたのです。最優先すべきは「安さ」。そのうえで品質をとことん上げていく。

「もう価格は十分安くなったから、これ以上の値下げはしなくていい。今度は適正な品質、そしてコーディネートに徹底的に力を入れろ」。晩年の先生の言葉です。

しかし、これを実現するには10年かかりました。色を徹底的に絞り込む作業。レッド、グリーン、イエロー、ピンク、パープルなど、限られた色彩に商品を限定する。その代わり、素材が変わっても、同じ色味ならば完全に同じトーンにそろえること。陶器でもロウソクでも布でも、何万色もあるなかで、ピタリと「この色」で統一させることは、実は相当な技術力が必要です。何十回、何百回と調整を重ねました。

しかしその結果、お客様のお買い物時のストレスはだいぶ減ったはずです。同じ色調でそろえれば、自然と部屋のなかのカラーコーディネートができてしまう。ホームファッションは洋服と同じで、色数は少ないほど選びやすく、また美しくなるのです。

(取材・インタビュー 佐藤ゆみ 構成=三浦愛美 撮影=奥谷 仁 写真提供=ニトリ、柴田書店)