裁判所の公判では、「窃盗」と並んで大麻・覚醒剤などの「薬物」の事件が目立つ。初犯なら執行猶予が付くため、裁判の雰囲気はゆるいことが多いという。ところが、音楽フェスで大麻を吸ったという20代会社員カップルの裁判では、思いもよらぬ人物が「厳罰」を下し、雰囲気が一変した。結婚予定だった2人の人生が暗転した瞬間を、裁判傍聴をライフワークとする北尾トロ氏がリポートする――。

大麻・覚醒剤などの「薬物」裁判件数は「窃盗」並

裁判所へ行くと、その日の公判予定を専用のPCでチェックする。「窃盗」と並んで目立つのは「薬物」の事件だ。芸能人が薬物の所持・使用で捕まるたびに世間は大騒ぎするが、筆者のような傍聴人にとってこうした事件は何年も前からごくありふれたものになってしまっている。

量刑は決して軽くない。大麻取締法違反の量刑(罰金刑を除く)は、こうなっている、

栽培または輸出入:
営利目的なしの場合、7年以下の懲役
営利目的ありの場合、10年以下の懲役(300万円以下の罰金の併科あり)
所持・譲渡・譲受:
営利目的なしの場合、5年以下の懲役
営利目的ありの場合、7年以下の懲役(200万円以下の罰金の併科あり)

実際に下される刑罰の相場は、栽培または輸出入で1年半~2年(初犯の場合執行猶予3年程度)、所持・譲渡・譲受で半年~1年(同3年程度)となっている。

覚醒剤取締法違反はさらに重い。

所持・使用:
営利目的なしの場合、10年以下の懲役
営利目的ありの場合、1年以上の懲役・最長20年(1000万円以下の罰金の併科あり)

初犯の場合は執行猶予付き判決が相場

ただ、こちらも実際は、初犯で営利目的がなければ懲役1年半(執行猶予3年程度)と実刑にはなりにくい。組織的犯行を除けば、初犯の場合は執行猶予付き判決が相場なのだ。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/Juanmonino)

罪状を認めていれば争点もないため、薬物を持っていただけ、ちょっと使ってみただけのレベルでは裁判の雰囲気もゆるい。審理は淡々と進み、せいぜい2回目、ときには即日で判決が言い渡される。

裁判長の説諭も、初犯なら「二度と手を出さないようにしてください」、再犯なら「治療を受けるように」が決まり文句となっている。筆者が傍聴を開始した2000年代初頭は、大麻はともかく覚醒剤所持には特別感があったのだが、いまでは開廷表を見ては「今日も覚醒剤だらけか」とタメ息をつくありさまだ。