これからは「演繹法」が重要になる

まず、最初に言っておきたいのは、「今世紀中にAIが、人間の総合能力を超えることなどありえない」ということ。しょせんAIは人間が作った道具。その規模やパワーは拡大しても、自意識や独立性といった、人間の本質的な特性を持つことができるとは、到底考えられないことです。

その意味では、AI時代に必要とされる人材とは、AIが苦手なことを柔軟にこなせる人間、まさに『シャーロック・ホームズ』がこれにあてはまります。

メタデータ代表取締役社長 野村直之氏

仮説を立て、物事を突き詰めて考え、証拠や反証を得て可能性をつぶしていく。さまざまな情報や物証を照らし合わせて分析し、事件現場で何が起きたかを推測する。つまり、消去法を用い、常人が思いつかない解答を出すのです。

ホームズは、並外れた演繹能力(仮説から結論を導き出す能力)を持っていた人物と言えます。そして、この演繹能力こそ、AI時代に向けて身につけておきたい力の1つなのです。

日本企業は反対の「帰納法」が大好き

日本企業は、演繹法とは逆の帰納法(調査などによって知りえた事実をもとに仮説を導き出す)が大好きで、市場調査に力を入れてきました。しかしこれには弱点もあります。“現在の”ユーザーが知っている範囲のニーズしかわからないということです。つまり“未来の”ユーザーが何を欲するかの情報が足りないのです。

ユーザー自身はまだ見ぬ革命的な新機能や使い勝手など思いつかず、教えてくれません。「今の日本企業では、iPhoneのように現状を打破し、ライフスタイルに大変革をもたらすような製品は到底作れない」とよく言われるのは、このへんに原因がありそうです。

これに対し演繹法は、前提となる原理原則や実績をもとに、新商品や新サービスを開発したり、事業戦略を立てたりするときに用いられる手段です。