カルビーを成長軌道に乗せ、「プロ経営者」として名を馳せた松本晃氏。退任後の去就が注目されたが、転職先はライザップのCOOだった。なぜ松本氏は結果にコミットしつづけられるのか。本人に聞いた――。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2018年7月2日号)の掲載記事を再編集したものです。

カルビー退任のニュースで株価は7%近くも下落

「かっぱえびせん」「ポテトチップス」「じゃがりこ」――数々のヒット商品で知られる大手菓子メーカー、カルビーの松本晃会長兼CEOが2018年6月20日に退任する。インタビュー後に発表された松本氏の“移籍先”は、フィットネスジム運営などのRIZAP(ライザップ)グループで、COO(最高執行責任者)として迎えられるという。

カルビー会長兼CEO 松本 晃氏

遡って18年3月27日、カルビー退任のニュースが報じられると、同社の株価は3780円から一気に7%近くも下落。市場の反応がその存在の大きさを物語った。松本氏が老舗菓子メーカーの舵取りを任されたのは2009年。以後8期連続増収増益を達成、就任当時1373億円(09年3月期)だった売上高を2524億円(17年3月期)と1.8倍に、同期間で営業利益率を1.5%から11.4%に押し上げた。

ほかにも東証一部への株式上場、主力のスナック菓子に次ぐ第2の柱と位置づけたシリアル「フルグラ」のヒット、中国やアジア、米国への海外展開、直営の飲食店や小売店など新業態の開発など、数々の実績を上げてきた。

だが足元は決して楽観できない。17年は悪天候によるジャガイモの不作で一時生産が止まり、18年3月期は就任後初の減収減益。米国での販売は停滞する。そんな中、業績巻き返しの切り札である「フルグラ」の専用生産棟の1つ、京都工場内の新生産棟が夏の稼働を控える。このタイミングでなぜ退任なのか。松本氏に聞いた。

リリーフ投手なら、投げても3イニング

――「フルグラ」の量産体制がようやく整うこのタイミングでの退任は唐突に感じる。退任の理由とは?

【松本】「唐突と言いますが、自分の身の引き方というのは事前にガタガタ言うものでもない、ということがあります。私は救援のリリーフピッチャーで、完投型ではありません。もともと4年だけのつもりでしたが、途中で株を上場したら右肩上がりに値を上げて、業績も上がってきたし、『フルグラ』のような面白い商品を手掛けていると、つい楽しくなりましてね。しかし6年経った頃からは毎年(辞める)タイミングを図っていました」

「野球で言えば、5回2アウト満塁のピンチに出てきて1人打ち取り、それだけではもったいないからと次の6回も投げたら、もう少し行けそうだと7回も投げた。今は8回の途中くらいというところじゃないですか。野球と違って経営に最終回はありませんが、リリーフ投手が3イニング投げたら長いですよ。誰も代われと言わないから自分でマウンドを降りてボールを返した、そんな感じです。(業績がよかった)17年に辞めとけばもう少し格好よかったんだけどね」