トヨタ生産方式はなぜ、他社では機能しないのか

経営について他社から学ぼうとすると、どうしても華やかな成功例に目がいきます。しかし、成功例から学ぶことは難しいものです。なぜなら、成功は“十社十色”で、一つひとつの成功が独自のものだからです。

トヨタ生産方式の「アンドン」で生産工程の異常はひと目でわかる。(時事通信フォト=写真)

戦略の基本は、他社と違うことをやることです。他社と同じことをやっていれば、どんぐりの背比べになり、泥沼の競争になって利益が出なくなります。いかに他社と違うことをやるかが、成功の必要条件の1つなのです。したがって、他社の成功を見て同じことをやっても、成功にはつながらないということです。

実際、成功している企業は、必ず他社と違うことをやって成功しています。例えば、同じ自動車業界で、トヨタとポルシェはどちらも成功している企業と言えますが、戦略はほぼ正反対です。トヨタは、ファミリーカーからスポーツカー、商用車まで全方位展開で、万人に受け入れられる自動車を生産し、圧倒的な台数を販売しています。一方のポルシェは、高級スポーツカーブランドとして、特定の層だけをターゲットとした車づくりを行っています。

ソニーとパナソニックは、いずれも日本を代表する家電メーカーとして成功を収めましたが、やっていることはやはり正反対でした。ソニーは、次々と新しいことに取り組むことでブランドイメージを高め、プレミアムな価格で販売することで成功しました。一方のパナソニックは、旧社名の松下電器にかけて“マネシタ電器”と揶揄されたほど、他社の製品と同じものを、よりよい品質でより安くつくり、全国の販売網を通じて大量に販売することで成功しました。

成功例から学ぶことは否定しませんが、表面的にモノマネをしても、まず成功しません。なぜなら、それぞれの成功の背景にある事情(コンテクスト)が異なるからです。

典型的な例が、トヨタ生産方式です。世界のビジネススクールで、トヨタ生産方式を教えないオペレーションの授業はありません。したがって、MBAを取得した人は皆勉強しています。そして、世界中のメーカーが導入しています。しかし、その多くは失敗しています。トヨタ生産方式は、あるコンテクストのもとでなければ機能しないからです。