東京暮らしを続けながら、田舎のよさも満喫している人たちがいる。快適さの一方、支払わなければいけないコストもあるだろう。メリットとデメリットの両面を探ってみた。
温暖な八郷地区ではほとんど一年中作物が栽培できます
野島恵子(のじま・けいこ)

東京ではメーク、茨城では農業

「昔の私を知っている人は、こんな生活を想像できないと思います」

野島恵子●野島さんは東京生まれ、東京育ち。数年前まで農業とは縁がなかったが、現在は茨城県石岡市八郷地区で野菜や米を育てている。農地に隣接した小屋はロシアの週末別荘「ダーチャ」風だ。

野島恵子さんはこう言って笑う。話を聞いたのは茨城県石岡市八郷地区(旧八郷町)。主要道路から一本折れた小道を上ったところに小屋があり、隣宅とは数百メートル離れている。ここは東京都練馬区に自宅がある野島さんの、もう1つの本拠地だ。

都会で暮らす人が地方にも拠点を持つ「二拠点生活」が増えている。住居を格安で貸し出すなど、受け入れに積極的な自治体も多い。「週末田舎暮らし」との違いは、両方が仕事や活動の拠点であること。「移住」よりライト感覚だ。野島さんも東京ではフリーのメークアップアーティストとして活動し、茨城では小規模な農業を営む。収穫物は通販でも販売する。

野島さんは大学時代から美容業界に憧れ、美容室で学生助手として働いてきた。卒業後は外資系化粧品会社勤務を経て、現在はフリーランスで舞台俳優や演奏家のメークを担当する。メーク相手に同行して全国を回ることもある。

なぜ、二拠点生活を始めたのか。「きっかけは5年ほど前に仲間数人と都内で始めた家庭菜園です。それが面白くなり、2年前に本格的にスタートさせました」

幸い、土地と建物はあった。亡くなった母親が陶芸活動のために造った小さな家が空いていたのだ。

「都内の家と茨城の家は、高速を使えばクルマで約1時間半。移動もしやすいのです。元気だった頃の母も早朝3時に来て、夕方には戻っていきました」

野島さんが農業にのめり込む一方、家庭菜園時代の仲間はそこまで踏み込まなかった。意識の違いをこう考えている。「毎日必ず作物の世話をしなければいけない、という意識を持ってしまうようです。実際は一定期間放置できる作物もあるのですが、そうした意識のハードルが高いのでしょう」。

こちらの生活にはヘビや虫の出現がつきものだが克服した。「田舎育ちの義兄が『飼っていると思えば気にならない』と言っていましたが、実際そうでした(笑)」。

気になる費用面は、東京の家も茨城の家も家賃の心配がない野島さんは恵まれている。農業を始めるにあたって農機具をそろえたり、井戸を掘ったりという費用はかかったが、以後は移動時のクルマのガソリン代、作物の種子、肥料代程度で済んでいる。最近は週1~2回往復しているので月11万円ほどかかるというが、頻度が低ければそれだけ安上がりにできる。