「経済力と子供の学力は比例する」と言われるが、中学受験においてはそうとも言えない。裕福な経営者の家庭に育った子が、伸び悩むケースが少なくないのだ。プロ家庭教師集団「名門指導会」代表の西村康則さんは「原因はたいてい親の側にあります。親が変わらないと子供は変わらない。家庭に入りこまないと改善しない。だから『家庭教師』というサービスがなくならないんですよ」と言う。経営者の家庭で、よく見られる受験失敗パターンとは――。
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その子は、小さい王様だよ

「西村先生、聞いてください! この前、初めて訪問した家庭なのですが、子供の態度が悪すぎです! 私が説明したら『ふむふむ』と答えるんですよ。『わかったら、ハイ、でしょう』とたしなめたら、『ハイ、ハイ』。大人を舐めています」

興奮気味に報告してきたのは、家庭教師歴2年のS(30代)だった。前職は大手進学塾の塾講師で、算数の指導力はピカイチ。教えたことを素直に聞く子であれば、必ず成績が伸ばす力を持っている。

「その子の親は、経営者ですか」

私は、Sに聞いた。

「はい。まだお会いしていませんが、父親が経営者だと聞いています。母親は専業主婦です。すごい豪邸で、大理石でできた玄関、クルマも高級輸入車でした」

Sの話を聞き、私はこう返した。

「その子は、小さな王様だよ」

父親をコピーしたような子供

中学受験をするなら、大手進学塾に通うのが一般的だ。しかし、大手進学塾は成績上位者のレベルに合わせてカリキュラムを作るため、ついていけない子が続出する。家庭教師は、そういう子たちの受け皿になっている。

ついていけない子の成績を短期間に上げるのは難しい。学習の取り組み方、本人の性格、そして家庭環境を含め、あらゆる要素を分析しながら、勉強法を改善していく必要があるからだ。いくら優秀な学生でも、バイトで務まるほど甘くない。

経験もあって指導力のある、プロ家庭教師がマンツーマンで教えるため、授業料は安くない。おのずと経済力のある家庭が顧客となり、経営者の家庭にお邪魔することが多い。経営者の家庭にうかがうと、「会社の王様」である父親をコピーしたような子供、つまり「小さな王様」と出会うことがある。「ふむふむ」と答えたSの教え子は、小さな王様の典型だ。

小さな王様は、教師に対しても上から目線で、「教わっている」というより「勉強をしてやっている」という態度だ。「子は親の鏡」というが、横柄な態度をとる子の親は、子供の見ている前で、そういった態度をとっていることが多い。たとえば、部下や業者に対して偉そうな態度をとると、子供も他人を舐めるようになる。

成績が一番伸びる子のタイプをご存じだろうか。それは、私たちが教えたことをとりあえずやってみる子だ。素直な子が、最も伸びる。小さな王様は、その真逆。プロ家庭教師が相当力を入れて指導しても、かなり厳しい道のりになる。

小さな王様が出現する以外にも、経営者の家庭には、いくつかの特徴がある。