人の心に火をつけるには、1対1で向き合わなければならない。だから会合を開くときには、「面白いから来てよ」というメッセージを個別に何回も送る――。ヤフー社員や起業家を集めたリーダー育成講座「ヤフーアカデミア」の伊藤羊一氏はこう語る。成果の出る「共創」のポイントについて、『「食」から考える発想のヒント』(実業之日本社)を出したフレンチシェフの松嶋啓介氏と伊藤氏との対談をお届けしよう――。
フレンチシェフの松嶋啓介氏(左)とYahoo!アカデミアを手がける伊藤羊一氏(右)

カオスじゃないと新しいものは生まれない

【松嶋啓介氏】今回の本の中で「カオスを作れ」って書いたんです。よくイタリアを旅行するのですが、イタリアをローマとフィレンツェとミラノの3つに分けて見るんですね。宗教的な話を大雑把にすると、例えばローマからキリスト教が広がり始めて、迫害や闘争を繰り返しながらフィレンツェに上がって来た時に、宗教よりも、少し人にフォーカスした優しいものが求められてルネッサンスが始まってるんです。みんな誤解するんですが、ルネッサンスは芸術や美術が発展したというよりも、戦争が多くて疲弊を感じた人々が優しさとか自然の美しさにフォーカスしたアートを求めたから出てきたんですよね。

【伊藤羊一氏】そうなんですね。

【松嶋】それがさらに上がってミラノに行くと、世界に対するコミュニケーションはミラノからやっていたような感じになる。場所と時代によってクリエイションしたもの、イノベーションしたもの、リノベーションされたものなど色々あると気づいたんです。そこでローマの話に戻りますが、ローマでアーティーチョークを注文すると「ローマ風ですか、ユダヤ風がいいですか」って訊かれるんです。

なぜかと言えば昔ローマはエリアごとに住んでる人種が違ったからです。それでごちゃごちゃになっていたものをまとめるために出てきたのがキリスト教です。キリスト教は新しい光だったんです。ローマがぐちゃぐちゃになっていて、色々なものがあって統制がつかないから何か新しい価値を作ろうと言って光が出てきた。だから「カオスじゃないと新しいものは生まれない」と本でも書いたのですが、以前お邪魔した「Yahoo!アカデミア」はまさにそれだった。

【伊藤】カオスだった?

【松嶋】ええ。だけど、このカオス感がいいって思いました。カオス感が新しいものを生むから。同じ毛並みを揃えただけの会だと何も面白くないですよ。

【伊藤】そうなんです。色々な人が来るというのがすごく重要で、ベンチャー企業の経営者もいれば、大企業のトップじゃなくて課長代理みたいな人が来るとか。

【松嶋】結構そこが多くてびっくりしました。