史上初の米朝首脳会談実現を受けて、トランプ米大統領への賛否の声がかまびすしい。いったいトランプ氏のやり方のどこが凄いのか。橋下徹氏がずばり指摘する。プレジデント社の公式メールマガジン「橋下徹の『問題解決の授業』」(6月19日配信)より、抜粋記事をお届けします――。
写真=朝鮮通信/時事通信フォト

凄腕交渉人、トランプ氏のノウハウはこんなに役に立つ!

6月12日に史上初の米朝首脳会談が開かれた。これを受けて、トランプ米大統領の外交について報道が溢れかえっている。激しく賛否両論を沸き起こし、自称インテリたちは評論や解説で商売繁盛だ。僕もそのうちの一人だけどね。

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トランプ大統領のことを嫌いな人はたくさんいると思う。でも好き嫌いを横に置けば、トランプ氏の政治的態度振る舞いは、実践的な交渉をする者にとって役立つことが多い。観念の世界に生きる者ではなく、現実の世界に生きる者には役立つことが多いんだよね。

ビジネスを進める上では、相手の好き嫌いはある意味どうでもいい。重要なことは成果を出すことだ。重要な成果を出すことのノウハウが、トランプ大統領の交渉術に存在するのであれば、トランプ大統領に対する好き嫌いは別として、そのノウハウはしっかりと学ぶべきだ。

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交渉相手との個人的な人間関係を緊密にすることに関しては、トランプ大統領の実行力は神業だと思う。これは人間としてのキャラクターがもの凄く影響してくるけど、このキャラクターづくりもある種計算しながらやらないといけない。トランプ大統領もしっかり計算していると思う。

彼の特徴は、個人的な関係が必要だと感じた相手に対しては、特に直接対面した時には、徹底して相手を持ち上げる。ここまで言うかよ! というくらいにね。

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通常、国家の指導者間では、儀礼的な態度振る舞いが主軸になる。まさに国家の指導者に相応しいとされる、お坊ちゃんお嬢ちゃん的な態度振る舞い。自称インテリたちが好むやつね。でもそれは、ほとんどが形式的・挨拶的な態度振る舞いで、事態を自分の方に有利に動かすことには繋がらない。ニコニコと挨拶する程度のこと。

しかし、国家間のものに限らずとも交渉で事態を自分の方に有利に運ぼうと思えば、これまで繰り返し指摘してきたように、「脅す」、「利益を与える/譲歩する」、「お願いする」しかない。

そしてトランプ氏のように、「脅し」を多用する交渉手法にとって最も重要なことは、脅しながらも交渉相手との人間関係はギリギリのところで維持していくという術だ。

これはとんでもない高度なテクニックで、普通はこんなことはできない。まさに神業。相手を脅せば、普通は相手との人間関係は崩れる、決裂する。そうなったとしてもなお力で押し込んでいくのは素人の交渉人だ。特に、国家の指導者間の関係では、最後には戦争になり得るからね。

最後にはきちんと交渉でまとめるのであれば、交渉の途中で相手と激しいケンカをしたとしても、決定的な人間関係の決裂にはつながらないような態度振る舞いが必要になる。

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このトランプ氏的態度振る舞いは、真のプライベートな友人関係を形成するためのものではない。激しく交渉することを前提に、ギリギリのところで決定的な決裂を避けるための態度振る舞いだ。トランプ氏はビジネスマンだ。ビジネス上の付き合いと、プライベートな付き合いは別だと割り切っているのだろう。

ところが意外にも、自称インテリたちが忌み嫌うこういう態度振る舞いの方が、同じ境遇で苦労を重ねている非民主主義の国家の指導者たちと、真の友人関係を徐々に形成する可能性がある。利害得失で敵味方をはっきりさせる率直な物言いの方が、ワンマン経営者にウケがいいのと同じだね。観念の世界ではなく、現実に生きる人たちの多くは利害損失を日々気にして仕事をやっている。こういう世界では、自称インテリが好む、お上品で形式的な儀礼的態度振る舞いというものが、真の友人関係の形成につながることはまずない。