愛媛県の「塀のない刑務所」から受刑者が逃走した事件を受け、法務省が受刑者にGPS端末の装着を検討している。GPS装置は逃走時の身柄確保には効果を発揮するだろう。だが受刑者の自尊心を傷付けることがあれば、更正は遠のいてしまうではないか。逃走を防ぎつつ更正を早めるには、なにが必要なのか――。
造船会社「新来島どっく」大西工場敷地内にある収容施設「友愛寮」(愛媛・今治市)(写真=時事通信フォト)

「人間関係が嫌になったから」と脱走

愛媛県今治市の松山刑務所大井造船作業場から脱走した27歳の受刑者の平尾龍磨容疑者が、4月30日に逮捕された。脱走から23日目だった。逮捕場所は警察が重点的に捜索していた尾道市の向島ではなく、JR広島駅近くの路上だった。

向島の空き家で食料をあさりながら逃亡生活を続け、着替えをポリ袋に入れて向島から海を泳いで本州まで渡って逃げていた。

警察の捜索網をかいくぐった平尾容疑者のサバイバルには感心させられるが、脱走・逮捕劇の中で沙鴎一歩が関心を持ったのが、平尾容疑者の「刑務所での人間関係が嫌になった」という供述だ。

平尾容疑者が脱走した大井造船作業場は、塀のない開放的な環境で職業訓練や自立生活をしながら社会への復帰を促す理念で運営されている刑務所だ。傍目には通常の刑務所に比べて自由で過ごしやすいと思うのだが、平尾容疑者にとっては脱走したくなるぐらいの“重荷”だったことになる。

今回の脱走・逮捕劇に対し、新聞各紙の社説は受刑者が人間関係に疲れる刑務所についてどんな論調を展開しているのだろうか。

模範囚の中でも“エリート”的存在だった

平尾容疑者はその後の広島県警の取り調べに対し「他の受刑者から嫌がらせを受けた」「刑務官に受刑者間のリーダーにさせてもらえなかった」とも供述し、隠れていた向島北部の別荘からは「刑務官にいじめられた」と不満を書いたメモも見つかった。

松山刑務所によると、平尾容疑者は模範囚を収容する大井造船作業場で早期の仮釈放を望んでいたが、3月と4月に規則違反を刑務官に叱責され、落ち込んだ様子だったという。

彼は2015年に松山刑務所に収容され、昨年12月に大井造船作業場に入った。精神状態が安定し、作業場に入る基準を満たしていた。作業場では作業手順が評価され、刑務官の注意事項を伝える安全対策委員に選ばれた。模範囚の中でさらに模範的な“エリート”とだった。

この作業場には独自の自治制度があり、複数の委員を指導役にして毎日のようにミーティングが開かれていた。

ここで持論を述べさせていただきたい。

自治制度は受刑者の間に上下関係を生じさせることになる。一般社会では当然だが、未熟さから社会で罪を犯し、刑務所という特殊な集団のなかに入れられた受刑者にとって上下関係は大きなストレスになるだろう。

それゆえ平尾容疑者は「人間関係が嫌になった」と供述したのだ。平尾容疑者は見かけは模範的な囚人だったが、彼の内面の人間性は未熟なのだろう。

平尾容疑者は受刑者だという自覚に欠けているし、甘えている。仮に平尾容疑が刑を終えて出所しても、再び戻ってくる可能性が高い。開放的施設に入れるべき受刑者ではなかったのだ。