毎年2月に行われる中学受験。国語の出題では、話題の小説が取り上げられやすい。中学受験専門塾の国語講師が今年の出題傾向を調べたところ、昨年5月の大型連休(GW)までに刊行された本から多く出題されていることがわかった。その理由と来年入試の「本命」と「対抗」の作品とは――。
(左)川崎徹『あなたが子供だった頃、わたしはもう大人だった』(河出書房新社) (中)渡辺優『自由なサメと人間たちの夢』(集英社) (右)青山七重『ハッチとマーロウ』(小学館)

2018年度の中学入試国語「題材作品」の共通点

私は中学受験専門塾の国語講師だ。今年2月、難関校で出題された作品のリストを眺めていて、ある「共通点」に気付いた。出題作品の刊行あるいは文庫化の時期が、2017年1月~5月に集中しているのだ。

以下は2017年1月~5月に刊行され、今年の中学受験で出題された文学作品のリストだ。

●青木奈緒『幸田家のことば』(小学館)【出題校】女子学院
●青山七重『ハッチとマーロウ』(小学館)【出題校】慶應義塾普通部
●井上荒野『夢の中の魚屋の地図』(集英社文庫)【出題校】巣鴨
●大崎梢『だいじな本のみつけ方』(光文社文庫)【出題校】吉祥女子
●川崎徹『あなたが子供だった頃、わたしはもう大人だった』(河出書房新社)【出題校】海城
●小嶋陽太郎『ぼくのとなりにきみ』(ポプラ社)【出題校】慶應義塾湘南藤沢・大妻
●椎野直弥『僕は上手にしゃべれない』(ポプラ社)【出題校】城北
●戸森しるこ「サヴァランの思い出」『飛ぶ教室第49号』(光村図書出版)所収【出題校】ラ・サール
●夏川草介『本を守ろうとする猫の話』(小学館)【出題校】鴎友学園女子
●文月悠光「制服の神さま」『小辞譚:辞書をめぐる10の掌編小説』(猿江商會)所収【出題校】本郷
●宮下奈都『ふたつのしるし』(幻冬舎文庫)【出題校】成城
●森谷明子『春や春』(光文社文庫)【出題校】白百合学園
●八束澄子『明日のひこうき雲』(ポプラ社)【出題校】学習院中等科・専修大学松戸
●渡辺優『自由なサメと人間たちの夢』(集英社)【出題校】聖光学院
▼5月の連休中に書店で本を物色する教員たち

以前、私立中高一貫校の国語教諭たちに「入試問題を作成する時期」についてたずね回ったことがある。その際、次のような手順で作成しているという回答が最も多かった。

1.5月の大型連休(GW)に、出題候補の題材を集める。
2.夏休み前までに、それらを読み込み、題材を決定する。
3.夏休み中に、決定した題材で入試問題を作成する。

こうした事実を踏まえると、例年1月~5月に刊行された作品が、翌年2月の入試問題に数多く登場するのは当然だろう。教員たちは5月の大型連休に書店で本を物色するので、そこで目につくのは春に刊行されたばかりの本になりやすいのだ。

もちろん、すべての学校がこうした手順で問題を作成しているわけではない。たとえば女子中学最難関といわれる桜蔭(東京・文京区)では、今春入試において前年9月刊行の作品から出題された。題材の入手から入試本番まで5カ月弱しかなく、そのスピードにかなり驚いた。