政府が検討中の放送制度改革で、テレビやラジオに政治的公平などを求める「放送法4条」の撤廃論が急浮上している。この動きにテレビ局や新聞は軒並み反発。特に「安倍政権寄り」といわれる読売新聞は、真っ先に社説のテーマに取り上げ、反対論を強く打ち出した。安倍首相は4月2日、渡辺恒雄読売新聞グループ本社主筆らと会食している。なにが話し合われたのか――。
2018年3月27日、「燦燦会(さんさんかい)」総会で、巨人の(前列左から)上原浩治、菅野智之、高橋由伸監督、坂本勇人、阿部慎之助らを激励する渡辺恒雄読売新聞グループ本社主筆(写真=時事通信フォト)

安倍首相は「法体系が追い付いていない」と発言

政府が政府が検討中の放送制度改革で、テレビやラジオに政治的公平などを求める「放送法4条」の撤廃論が急浮上し、大きな波紋を広げている。

民放各社は強く反発、新聞各紙でも反対意見が目立つ。特に「安倍政権寄り」といわれる読売新聞は、真っ先に社説のテーマとして取り上げ、「番組の劣化と信頼失墜を招く」(見出し)と反対論を強く打ち出している。

政府は放送制度改革について、放送関連の規制を撤廃し、通信と放送の融合を進めることで、業界を活性化することが目的だと説明している。

今年1月31日、安倍首相は、楽天の三木谷浩史会長兼社長が代表理事を務める新経済連盟の新年会で、自身のネット出演について「双方向でいろんな意見があり面白いなと思った。見ている人には地上波と全く同じだ。法体系が追い付いていない」と発言。その直後となる2月7日、内閣府の規制改革推進会議のワーキンググループで放送制度改革の議論がスタートした。

こうした事実関係を踏まえると、放送法4条の撤廃も、安倍・三木谷ラインで推し進められている改革だと考えられる。

今秋の臨時国会に関連法案を提出する構え

放送法4条が撤廃されると、テレビやラジオの番組は具体的にどうなるのだろうか。

放送の自律を保障しながら公共の福祉に適合するよう規制する法律が放送法である。戦争中、ラジオが政府宣伝に使われた反省から1950年に制定された。

その4条では大きく以下の4点を放送局に求めている。

(1)公序良俗を害しない
(2)政治的公平さを失わない
(3)事実をまげない
(4)意見が対立する問題は多角的に論点を明確にする

各紙の報道によると、放送局に番組基準の策定や番組審議会の設置を義務付けたり、教養、報道、娯楽など番組ジャンルの調和を求めたりしている規定をすべてなくすことが検討されているという。ただしNHKは規制撤廃の対象外だ。

ひとつの企業が多くのマスメディアを持つことを禁じた条項や外資参入の規制、地上放送の組織に関する放送法の例外規定などもなくす。

規制改革推進会議が5月にまとめる上げる答申に方針を盛り込み、今秋の臨時国会に関連法案を提出して2020年以降の施行を目指すという。

放送制度改革で、一時的に業界は活性化されるかもしれない。だが政治的に偏った番組が氾濫する恐れがあるし、事実を曲げた放送がはびこる危険性もある。視聴者は何が事実で、どれが虚偽かが分からなくなり、自分の興味本位でしかものごとを見なくなってしまうだろう。日本の社会は大きく分断され、大混乱する。