「定年後」に一変することがある。家計簿の習慣があった妻(60)は、夫(61)が定年を迎えると、その習慣をやめ、夫婦の「マネー会議」も自然消滅した。その直後から、妻の確信犯的な浪費が始まった。家計は年200万円の赤字に転落。一気に老後破綻が目の前に迫った。真面目で堅実だった夫婦に何が起こったのか――。

堅実家計の60代夫婦 なぜ年間200万の赤字に転落したのか

「定年後、1年もたたないうちに貯金が200万円も減ってしまいました」

※写真はイメージです(写真=iStock.com/studiocasper)

不安そうに話すのは、定年を過ぎ雇用延長で働くSさん(61)。妻(60)は専業主婦です。退職金(500万円)をもらった後は、定年のお祝いの海外旅行をするわけでも、高価な品を買うわけでもなく、「いつも通り」に暮らしていたといいます。

Sさんは勤めていた会社で雇用も延長され、月収18万円あまり。生活費には足りないけれど一定の収入を得られるので老後生活はあまり心配していなかったそうです。それなのに貯金が1年で200万円も減り、本人たちが驚いているのです。

預貯金の合計は現状2300万円で、その内訳は確定拠出年金が1000万円、退職金が500万円、預貯金が800万円となっています。一般的な老後資金としては十分とは言えないかもしれませんが、60歳以降も給与収入があり、退職前に住宅ローンを完済し、子供もすでに結婚しており教育費の支払いなど大きな支出の予定もありません。

▼1000万円の貯金が1年たらずで800万円に減った理由

ところが、ふたを開けてみると毎月17万円の「生活費不足」が発生し、本来1000万円あった預貯金は1年で800万円に減ってしまいました。

定年前は、家計の赤字はほとんどなかったといいます。どうしてこんなことになってしまったのでしょうか。

理由はどうやら家計簿にあるようでした。Sさんご夫婦は、奥さんが家計簿をつけ、月に1度ご夫婦で「家族マネー会議」をしていました。とてもいい習慣です。老後資金の額を確認したり浪費の有無をチェックしたり。「とにかくお金関係をきちんとしておきたい」。そのためにやっていました。ところが、Sさんがいったん定年を迎えた頃から、この習慣が失われてしまったのです。

妻は、家計管理を負担に思っていたそうです。Sさんが定年し、雇用延長として働くようになった時、「家計簿をつけるのをやめたい」と申し出がありました。Sさんは、妻は長年家計簿を継続してきたから、支出の感覚もつかんでいるだろうし、退職金ももらって額の大きい収入も今後ないので、家計簿をつけなくてもよいことにしました。と同時に、家族マネー会議も自然消滅しました。