カジノを中核とする統合型リゾート(IR)の設置に向けた動きが加速している。推進派は「外国人のカネを呼び込む」と息巻くが、その背景には衰退が著しいパチンコ業界の暗躍がある。彼らは生き残りをかけて、自民党のみならず野党の政治家までも動かしているのだ。ジャーナリストの出井康博氏がリポートする――。(後編、全2回)
2017年8月1日、政府のカジノを含む統合型リゾート(IR)の整備に向けた推進本部会議で、有識者会議議長の山内弘隆一橋大学大学院教授(右)からカジノ制度の大枠をまとめた提言書を受け取る安倍晋三首相(写真=時事通信フォト)

本当にカジノで地方は活性化するのか

日本に当初誕生するカジノの数は、大阪など大都市に「2~3カ所」と想定されていた。しかし、その数が増える可能性が浮上している。2018年2月26日の『時事通信』電子版は、こう伝えている。

<カジノ、4カ所以上視野=地方配慮に軌道修正-与党協議で決着へ>

数を増やすのは「地方配慮」だというが、本当にカジノで地方は活性化するのだろうか。そもそも世論の過半数は反対だというのに、何のためにカジノはつくられ、誰が「得」をしようとしているのか――。

カジノ解禁が議論され始めた頃から、「カジノの収入は1.5兆円、経済効果は7兆円」といった話がまことしやかに流れた。出所となったのは外資系の投資銀行などである。そこに大手メディアが乗っかり、「日本、アジア第2のカジノ市場へ」(2016年12月4日付『日本経済新聞』電子版)といった具合にカジノ効果をあおった。

一方、推進派の政治家たちは、カジノによって「外国人観光客」が増えると強調していた。カジノ解禁が当初、2020年の東京オリンピックを意識して進められようとしたのも、外国人観光客との関係からだ。

しかし、いくら“普通”の観光客がカジノを訪れても大きな収入は見込めない。マカオやシンガポールで「カジノブーム」が起きたのは、マネーロンダリング(資金洗浄)目的の中国人VIPの存在があったからなのだ。(前編「外資カジノが“1兆円投資”を発表した思惑」参照)

外国人観光客の3.5人に1人がカジノを訪れる?

では、投資銀行などは何を根拠として、日本のカジノが1兆円規模の市場となるといった話をしているのか。

米大手投資銀行「シティ・グループ」が2013年8月に発表したレポートがある。日本にカジノが誕生した場合の市場規模を予測したものだ。レポートは東京、大阪、沖縄の3カ所にカジノができると仮定したうえで、収入を「年134億ドル~150億ドル」(約1.4兆円~1.6兆円)と見積もっている。大手メディアを含めた推進派は、こうした数字を都合よく引用した。

ただし、レポートを詳細に読むと、推進派が触れない事実が多く見つかる。まず「150億ドル」の内訳だが、外国人客からの収入は約33億ドルに過ぎず、残りの8割近くは日本人客が想定されている。推進派は「1.5兆円」という数字は持ち出しても、外国人客からの収入が2割少々にすぎないという点には触れようとはしない。

しかも外国人が使うという「33億ドル」ですら極めて甘い試算だ。年830万人もの外国人がカジノで遊び、シンガポール並みに「1人400ドル(約4万2000円)」を負けてくれてやっと達成される。