上司が代わった途端、エース部下のパフォーマンスが極端に低下することがある。それは、部下への誤ったレッテル貼りから始まるのだ。

活力あふれる社員がダメ部下になる瞬間

新しい職務について、部下との関係が生産的なものになるか面倒なものになるかは、往々にして最初の30日で決まる。万が一、悪いスタートなら、当人だけでなく部下やチーム全体のエネルギーと生産性を急落させるパフォーマンス低下の悪循環が生まれることがある。ビルとマークに起きたことはその好例だ。

われわれが初めてビルに会ったとき、彼は活力あふれるマネジャーだった。が、わずか6カ月後には、彼は会社を辞めることを考えており、彼の士気の低さは同僚や部下に影響を与えていた。彼の上司が代わったことが原因である。新しい上司、マークは頭の切れる善意の人であったが、ビルに厳しい目を向けるようになっていた。

マークは、会社の将来を左右するような戦略的事業部門の舵取りを初めて任されたのだ。そのため彼は、自分の新しい上司や同輩から信用を勝ち取りたいと強く願っていた。着任間もないころ、マークはビルに、ビルの工場の欠陥率について短い分析レポートを書いてくれと頼んだ。マークにはそれを頼むだけの理由があったのだが、それは伝えなかった。

ビルは、自分がしっかり監督している事柄についてのレポート提出が心外だった。ゆえに、ほとんどエネルギーを投じず、遅れて提出することもあった。マークはレポートの遅れや質のばらつきをビルが製造工程をきちんと管理していない印ととらえ、そのためさらに詳しい情報や分析を盛り込むよう求めた。マークが押せば押すほどビルは後退していった。

ビルの仕事ぶりについての不安が高まるにつれて、マークはビルに対する監督を全般にわたり強化した。どうでもいいことまで細かく管理されていると感じたビルは、マークの要求や指示の一部を無視するようになった。6カ月経たないうちにマークは、ビルがこの仕事に向いていないと確信していた。2人はパフォーマンスを低下させる悪循環にはまり込んでいたのである。