いま政府の方針に沿って、非正規社員の「正社員化」を進める企業が目立っている。だがビジネス・ブレークスルー大学学長の大前研一氏は「『今会社にいる人間に何をやらせるか』という考え方ではもう絶対に駄目。正社員を抱えると、会社は変われなくなる」と警鐘を鳴らす――。

※本稿は、大前研一『勝ち組企業の「ビジネスモデル」大全』(KADOKAWA)Part1「大前式『21世紀のビジネスモデル』の描き方」を再編集したものです。

時代の変化に追いつけなかった家電メーカー

かつての大量生産、大量消費時代の日本のメーカーは、設計から製造、販売に至るまで、全ての機能と設備をワンセットで自分たちの会社の中に持っていました。ところが、こういうやり方でいこうとすると、だんだん需要が陰ってきたり、世の中が大きく変わってきたりした時に会社がうまく回らなくなってしまいます。

大前研一『勝ち組企業の「ビジネスモデル」大全』(KADOKAWA)

実際にデジタル・ディスラプションの時代=デジタルテクノロジーによる破壊的イノベーションの時代が到来した時、まず製造設備をたくさん持っていた会社からさまざまなトラブルが発生し始めました。

日本の家電メーカーがほぼ全て崩壊した理由というのは、スマートフォン1台の中にビデオもカメラもオーディオも全部入ってしまったという時にまだビデオを作る会社を持っている、オーディオ機器の製造工場を持ち続けるという発想の遅れにあったわけです。

日本のメーカーは、デジタルカメラ隆盛の時代あたりまでは世界をリードしていましたが、それがスマホのアイコン1つで全てがこと足りる時代になった時に、時代の変化に追いつくことができなかったのです。

抱えない勝ち組の代表格「キーエンス」

デジタル・ディスラプションの時代における勝ち組企業のビジネスモデルとは何か? この問いに対する答えを最初に言ってしまうならば、「抱えない」こと=「ソリューションファースト」であることです。

この“抱えない”“ソリューションファースト”という勝ち組のビジネスモデルを実現し躍進している日本企業の代表格が、大阪に本社を置くキーエンスというセンサーのメーカーです。センサーとは、今注目されているIoTにおいて非常に重要な技術でありアイテムです。

キーエンスは昔から収益性が非常に高い会社として知られていますが、その大きな要因の1つが、「社内に製造部門を持っていない」ということです。所有をせずに空いているものを有効活用する「アイドルエコノミー」をいち早く実践してきたのです。

こういうセンサーを作るのであればこの技術者、この会社に頼めばいい、ということを熟知していて、外部の彼らに作ってもらい、納品する。つまりお客さんのニーズと、それを作れる人が分かっていて、お客さんと作り手を的確に結び付けるのです。