「ルール」や「常識」に従ったままでいいのでしょうか。人間関係に気をつかって「お人よし」を演じていれば、心はどんどん疲弊していきます。エッセイストで講演家の潮凪洋介氏は、「『いい人』ほど沈黙を恐れて、話を無理につなごうとする。沈黙を楽しんだほうが、人生は豊かになる」と説きます――。

ホスピタリティーの裏にある自己防御反応

取引先との商談や打ち合わせなどで相手と1対1になると、会話が途切れることもあります。そんなとき、沈黙に耐えられなくなってあわてて不自然な言葉でつないでしまった経験はありませんか?

潮凪洋介(原著)、うげっぱ(著)『漫画 もう「いい人」になるのはやめなさい!』(KADOKAWA)

不自然な言葉を口にすると、自分自身が気まずくなり、その後の会話を進展させることが難しくなります。失策は明らかなのですが、これを一方的に悪いことと決めつけることはできません。あわててつなぐのはあなたの中にホスピタリティーがあるからで、善か悪かと言えば、確実に「善の心」です。サービス精神があり、「楽しませなくては!」という心があるからこそ焦るのでしょう。

善であるホスピタリティーによって無理につないだのに、なぜ、あなたは気まずくなってしまうのでしょうか。それは、ホスピタリティーの裏に、実は「会話が続かないと、能力が低いと思われてしまう」「場がしらけると、つまらない人だと思われてしまう」といった、自己防御本能からくる過剰反応があるからです。

いずれにしても、沈黙に耐えられなくなってあわててつなぐのは、心根のやさしい「いい人」が陥ってしまいがちな失敗です。このような失敗をしないためには一体どうすればよいのでしょうか。

その場を気ままに楽しんでいる姿を見せる

まずは、開き直ることです。相手を楽しませるのではなく、自分がその場を楽しみましょう。

沈黙の間、何か自分が無理なく話せることはないかを探ります。そして、無理なく話せることがみつかったら口を開けばいいのです。目に映る景色のことや、時事の話題でもいいでしょう。その場を気ままに楽しんでいる姿を見せることができれば、相手もリラックスします。緊張して、楽しむどころではなくても、最初は無理やりそうしてみましょう。自分自身に対して、今、この場を楽しんでいるという意識づけをすることが大切です。

避けなくてはいけないのは、「心にもないことを言って、無理につなぐ」ことなのです。商談中に無理に会話をつなごうとして、かえって上滑りで浅はかなことを言ってしまえば、信頼感は薄らぐでしょう。相手が何かを思案していたり、何かを言おうとしたりしているのに、つなぎの会話をかぶせてしまっては、目も当てられません。さらにあなたの緊張や不安が伝われば、印象は最悪です。

こうなると、ビジネスの関係がその後も続いたとしても、力関係は相手のほうが完全に上になってしまいます。いつももみ手をしながら相手と接していかなくてはいけなくなるのです。これでは良いビジネス関係が築けるはずもありません。