「プチ富裕層」と呼ばれる中国人が相次いで日本を訪れている。目的のひとつは「コース3万円」という高級店でのディナーだ。彼らは「安くてうまい」といって喜ぶという。どういうことなのか。『中国人富裕層はなぜ「日本の老舗」が好きなのか』(プレジデント社)の著者で、中国事情に詳しいジャーナリストの中島恵氏が、中国で日本のライフスタイルや旅行に特化した雑誌『行楽』を発行している行楽ジャパン社長の袁静氏に聞いた――。(前編、全2回)

中国の海外旅行者数約1億2200万人で世界一

――中国人観光客の中でも、個人客が急増中で、2015年には団体客を追い抜きましたね。日本では個人、団体と分けて受け止める人は少なく、すべて「中国人客」とひとくくりにしてしまう傾向がありますが、それぞれ取得できるビザも違いますし、中国にはさまざまな人がいます。どうお考えになりますか。

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その通りですね。16年は個人客6.5割、団体客が3.5割というのが全国平均ですが、北京や上海などの大都会に限定すれば、個人客が8割を超えています。観光バスから降りてくるのは団体客です。

中国人の海外旅行者数は世界一で、16年の出国者数は約1億2200万人。人口が14億人もいるので、単純計算で全体の8.7%に過ぎません。その中で個人旅行ができる人はまだ一握り、社会的にかなり上層にいる人々なのです。

――袁さんはご著書『日本人は知らない中国セレブ消費』の中で、日本がインバウンド・ビジネスのターゲットとすべきは、ミドルクラスから少し上の人たちで、「プチ富裕層」と名づけていらっしゃいますね。

はい。ご存じのように、中国は日本では考えられないほどの格差社会です。ミドルクラスより少し上というと、日本では「中間層」と呼ぶことが多いですが、それは、日本では上中下で分けたとき、ボリューム層が圧倒的に多いから。でも、中国ではまだ下が大多数です。先ほど述べたように、上位1割(8.7%)に入っているのに中間層というのは、中国の感覚的にはちょっと違うかなと思ったのです。

しかし、富裕層という言葉には厳密な定義がなく、とてつもない大富豪も含まれてしまうかもしれない。そこで、「プチ富裕層」という言葉を考えつきました。世帯年収が2000万円をこえると、さすがに富裕層と呼ばざるを得ないですが、500~2000万円くらいの人をプチ富裕層とイメージしています。これから、日本がインバウンドのターゲットとしていくのは、このような人々かな、と。