加齢が引き起こす体の不調。放置していれば、取り返しのつかない事態を招くこともある。「プレジデント」(2018年1月1日号)より、9つの部位別に、名医による万全の予防策を紹介しよう。第5回のテーマは「耳」――。

新幹線に1回乗ると、1日の上限を超えてしまう

耳が遠くなるのは70代、80代になってからと思ってはいないだろうか。耳鼻咽喉科医の中川雅文氏は「生活環境や習慣の変化により、若くても難聴になる人が増えており、高齢者だけの問題ではない」と話す。

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聴力は20歳をピークに下がり始める。40代で軽い難聴の兆候が表れ始め、60代で日常会話に不自由を感じる人が増え始める。65歳以上では25%、75歳以上では50%の人が「補聴器が必要なレベルの難聴」というデータもある。現役で働いている50代、60代でも、人に聞き返すことが多くなったり、声が大きくなってきたりする場合は、難聴が進行している可能性が高い。

難聴の主な原因は、高血糖、高血圧、動脈硬化など、加齢に伴うものだが、もう1つの大きな原因として、「騒音による内耳障害があります。大きな音を聞くと、耳の内側にダメージを受けてしまうのです」と中川氏は話す。

コンサートなどで大音量の音楽を聴き続け、帰り道や翌朝に耳が聞こえにくくなったり、耳鳴りがしたりした経験はないだろうか。これは「ロック難聴(急性音響外傷性難聴)」と呼ばれ、一時的に内耳障害が起きているということだ。現代は、生活環境に音があふれていて、耳が休まらない時代になってしまっている。

「テレビもラジオも何もなかった時代の人間が1日に聞いていた音の総量や大きさと、現代とでは、かなりの違いがあります。耳に負担をかけないために1日に聞いていい音の上限は、90デシベルで59分ぐらい。たとえば新幹線の車内は80デシベルほどの音環境にあるため、出張で新幹線に1回乗るだけで、その日の上限を超えてしまいます」

パチンコ、カラオケ、麻雀など、近くの人の声も聞き取りづらい大音量の空間に身を置くことは、耳の老化を加速させる要因となり、健康維持のためのウオーキングやランニングも、国道沿いのように交通量の多い場所で行うと騒音が激しいため、耳に負荷がかかるなど、現代は、難聴の要因だらけなのだ。