上司に頼み事をするとき、あなたはどのように切り出すだろうか。明治大学教授の齋藤孝氏は、「『今ちょっといいですか』は不適切。おすすめは『30秒だけいいですか』と時間を区切ることです」という。「お願い」を引き受けてもらえる頼み方の一工夫とは――。

※本稿は、齋藤孝『大人の語彙力大全』(KADOKAWA)の第2章「さりげなく使いこなしたい、大人の敬語」を再編集したものです。

いやな気分がしない程度の持ち上げ方

ビジネス上の頼みごとは期日や責任といった負担が伴うものがほとんどなので、二つ返事でYESと言ってもらえるケースはほとんどありません。「考えておきます」と返事を引き延ばされたり、「それはそうと」と話をそらされたりする場合は、ほぼNOと考えていいでしょう。

齋藤孝『大人の語彙力大全』(KADOKAWA)

頼みごとがとくに難しいのは、相手が目上の人の場合。ハードルの高いYESを目指すのではなく、NOと言われない頼み方、「まあ、そのくらいのことなら」「そう言うなら」くらいの答えを引き出すためには、いやみにならない程度に相手を持ち上げることが大切です。

「この件についてのお考えを聞かせてください」
→「この件についてのご賢察をいただきたい」
「ご理解いただきたく」
→「何卒ご高承いただきたく」
「ぜひ部長のご意見をお聞かせください」
→「お目が高い部長のご意見をお聞かせください」

「ご賢察」は、相手を敬って、その人が推察することをいう言葉。「ご高承」は、「理解する、了承する」を敬っていう言葉。「賢」や「高」がつくことによって、「賢いあなたのお考え」「すばらしいあなたのご理解」という意味の尊敬語になります。

また、「お目が高い」は「よいものを見分ける能力を持っている」という意味で、「目が利く」と同じ意味です。

これらの言葉によって、頼む相手に「他の誰でもない(誰かではダメ)、賢くてすばらしくセンスにあふれているあなただからこそ、お願いしたいのです」というメッセージを伝えることができるのです。

人は、自分のオリジナリティを評価されるとうれしいもの。“誰でもいい”ではなく“優れているあなただから”とさりげなく持ち上げることで、「そこまで言うなら」と思ってもらうことができます。たった一文字でそれができる言葉を使わない手はありません。