DVDレンタル大手ツタヤの新業態「蔦屋書店」が全国で店舗を増やしている。本が売れない時代に、なぜ人が集まるのか。神戸大学大学院の栗木契教授は「リアル店舗の強みである『カフェ』を活かした店づくりに成功している」と分析する。デジタル時代におけるリアル店舗の生存戦略とは――。
梅田店では、ワークスタイル提案型の店づくりをめざしている(写真提供:蔦屋書店)

書店とカフェが一体になった「ブックカフェ」

本が売れない時代に出店を拡大する。そんな書店がある。カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が手がける新業態「蔦屋書店」である。

デジタル化が進むなかで、街中の書店やCDショップが次々と姿を消している。その一方で、本やCDを扱っていても、多くの消費者の支持を集める店舗が登場している。その代表格が蔦屋書店だ。同社はこの業態について、<「書店」と名乗りながらも、本を売るためだけの施設ではありません。本や音楽、映画が揃っていますが、そこで過ごす「時間」を楽しんでいただけるような空間を目指しています>と説明している。

CCCが蔦屋書店を代官山に出店したのは、2011年のことである。現在では、佐賀県武雄市図書館などの図書館併設店舗なども含め、全国12店舗に広がっている。

CCCは蔦屋書店をライフスタイル提案の新しいプラットフォームとすることをめざしており、本だけではなく文具や雑貨なども積極的に扱う。スターバックスコーヒーなどとも提携し、落ち着いたインテリアの店内に飲食スペースを広く取る。書棚に並ぶ本は店内カフェで読み放題であり、各種のカルチャーがシームレスにつながる体験を楽しむことができる。

日本最大級のターミナル駅での挑戦

今回はそのひとつである大阪市の「梅田 蔦屋書店」(以下、梅田店)の亀井亮吾館長にお話をうかがった。

梅田店がオープンしたのは2015年5月。JR大阪駅に隣接する駅ビルに約1200坪という大きな売場を確保しての出店だった。同ブランドにとっては、西日本への初の本格出店であると同時に、日本最大級のターミナル駅に直結した都心立地への新たな挑戦だった。

これまで蔦屋書店は代官山、函館といった住宅街や郊外を背景とした立地において一定の展開力を示してきた。だが、同社はその先に都心オフィス街などへの展開をにらんでおり、梅田出店は重要な試金石だった。

蔦屋書店が大切にしてきたのは、本との出会いを通じて、トータルなライフスタイルを提案することだった。ゆったりとくつろげる居心地のよい空間を、素敵な人が行き交う。そのなかで、本当に読みたい本との出会いを果たす。こうした知的刺激に満ちた出会いを提供することを代官山や函館の店舗から引き継ぎながら、梅田店では新たな挑戦として、ワークスタイル提案型の店づくりをめざすことになった。この「ワークスタイル」というテーマへのフォーカスは、日本有数のオフィス街の中心に位置し、多くのビジネスパーソンが行き交う立地を踏まえての判断だった。

梅田店が試みたワークスタイル提案型の店舗とは、単にビジネス書を多く並べた書店ではない。たとえば、働き方改革が叫ばれる昨今では、「子育て」もワークスタイルに関連する重要なテーマのひとつといえる。ワークスタイルを支える各種の教養にも目を配る必要があり、関連する人文書も合わせて並べると売上げがあがるという。そして梅田店では、各種のセミナーやイベントに使えるスペースを多く設けるとともに、カフェに加えて眼鏡、オーダーシャツ、セラピー、靴磨きなど、ワークスタイルの提案につながる物販やサービスのテナントが10以上入居している。