1月9日の朝、前橋市内で2人の女子高校生が車にはねられ、意識不明の重体になった。車を運転していたのは85歳の男性。高齢のため家族から運転免許の返納を勧められていたという。高齢者が加害者となる事故をどう防げばいいのか。ジャーナリストの沙鴎一歩氏が各紙の社説を読み比べつつ考察する――。
女子高校生2人がはねられた事故現場を調べる捜査員=1月9日、群馬県前橋市(写真=時事通信)

「気付いたら事故を起こしていた」

今年1月9日の朝、前橋市内で自転車に乗って学校の始業式に向かう女子高校生2人が車にはねられ、意識不明の重体となった。車を運転していたのは85歳になる男性だった。

この男性は普段から物忘れがあり、物損事故も多く、家族が運転免許の返納を勧めていた。しかし従わなかった。警察が自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)の疑いで男性を逮捕したところ、「気付いたら事故を起こしていた」と供述したという。

通学途中の若い女の子が交通事故に遭い、大けがを負う。逮捕された男性の家族もつらいと思う。事故は被害者、加害者の双方が悲惨なことになる。

この数年、高齢者が加害者となる事故が目立ち、社会問題になっている。どうしたら高齢者の交通事故をなくすことができるのか。

この連載では新聞各紙の社説を読み比べている。各紙の社説がそろうのを待っていたが、はしごを外された。悲しいかな、今年に入って高齢者の交通事故を社説で取り上げたのは1月13日付の産経新聞が最初で、その後は1月30日現在、東京新聞(29日付)が書いてきただけである。

高齢者の運転免許の是非は、社会全体で議論すべき重大なテーマだ。こういうテーマこそ社説で取り上げてほしい。

産経の見出しは「強制返納の仕組み検討を」

1月13日付の産経社説は「高齢者の運転適応能力が低下するのは、自然の摂理だ」と指摘したうえで、「免許返納の促進は、被害者のみならず、高齢ドライバーを守るためのものでもある」と主張する。

この前に産経社説は「被害者にとってはもちろん、事故は加害者やその家族にとっても悲劇に他ならない」と書き、主張をうまく補強している。社説としてはうまい論じ方である。

さらに「運転に不安があれば自主的に返納すべきである。家族も目を配りたい」と書き、続けて「明らかに能力を欠きながら運転に固執するケースには、強制力をもって免許を返納させる仕組みが必要ではないか」と訴える。

見出しも「強制返納の仕組み検討を」だが、産経社説は北朝鮮への圧力強化を訴えるように高齢ドライバーにも強制力で何とかしようとする。もう少し新聞社としての熟慮が必要ではないか。

判断力や技能をどう検査すればいいのか

産経社説は後半で「男は昨秋の免許更新時に認知機能検査を受け、認知症ではないとされていた。その診断結果が運転能力への過信につながっていたとすれば皮肉である」と指摘し、認知症以外の運転技能検査の義務付けをこう訴える。

「道交法は昨年、更新時や違反時などに義務づけた検査で認知症と診断されれば免許停止や取り消しにできるよう改正された」

「だが、高齢者の事故原因は認知症だけではない。年齢に伴う判断力や運転技能の低下は、事故に直結する可能性が高い」

この主張も分からないではない。だが、高齢者の判断力と運転技能の基準をどこに置いてどう検査するかまで具体的に突っ込んで書くべきだろう。高齢者の運動能力は格差が大きく、運転ができるか、できないかを一律に決めがたいところがあるからだ。

問題は一筋縄ではいかないのである。