世界はここ20年で様変わりし、社会主義の国々が資本主義市場になだれ込んできた。例えば一大労働市場が誕生した中国は世界の工場となり、労働集約型の加工産業が急拡大した。

一方の素材産業は資本集約型の産業であり、投資家が要求する採算ラインが厳しいこともあって十分な増設ができず、素材ショーテージ(供給不足)が発生した。とりわけ化学や鉄鋼はその傾向が顕著で、供給不足を背景とした業績拡大が続いてきたのだ。

ところが2007年度下期から徐々に減速が始まる。それでも08年度上期まではまあまあだったが、その後の大混乱は読者諸兄の知るところである。折からの金融不安と先安感が相まって昨年11月中旬からはパニック状態となった。昨年夏を100とするならば、20~30といった水準まで素材需要が下落するほどの惨状を呈してしまった。

そのパニックも一部では収束を見せ始め、足元では市況が回復の兆しを見せているものも出てきた。しかし、じきに元に戻るという観測は、かなり虫のいい期待だろう。中国の旧正月が過ぎ、パニックは緩和しても、元の100には到底戻らない。せいぜい60~70の水準に戻るのが関の山だと思われる。

こうした事情もあり、08年度下期から09年度にかけて化学大手各社の石化事業は軒並み赤字になると見込んでいる。各社が培ってきた化学技術を応用し進めてきた多角化効果で、全社的には黒字を確保する会社もあろう。しかし収益率の大幅な悪化は避けられない。

それでは今後、化学各社が生き残るために取り組むべき課題は何か。コモディティの強化、スペシャリティの推進、環境問題への解決策提示の3つのバランスをうまく取ることであろう。

開発途上国で需要が急増するコモディティ製品では、最低コストでの生産者が圧勝し、潤沢なキャッシュフローを獲得しよう。それを巨額化する一方のスペシャリティ技術の開発費へ投入せねばならない。化学のスペシャリティ技術は、先進国で必須となる加工製品でのイノベーションに不可欠であり、環境問題の解決策提示の重責も担う。

しかし、日本の化学産業はこの3つの課題を克服する手立てを持っているのだろうか。次回は、私なりにその処方箋を提示したい。