東京・港区に本店を構える「ラーメン二郎」は、多数のファンを抱える人気ブランドだ。顧客から応援されるブランドはどこが違うのか。いずれも経営学者の新井範子氏と山川悟氏は共著『応援される会社』(光文社新書)で同店を取り上げ、「類似店舗を許容する姿勢が、本店の価値を高めている」として、5つの類型のうち「崇拝型応援タイプ」に分類している――。

※本稿は、新井範子・山川悟『応援される会社』(光文社新書)の第3章「応援されるブランドの類型と特徴」を再編集したものです。

小さな入口から奥深い世界を垣間見せる

東京都港区三田に本店を構える「ラーメン二郎」。近隣の慶應の学生たちの応援が店を支えたというエピソードも残っている。とにかく量が半端なく、「小」を頼んでも他店の大盛りを遥かに凌駕するラーメンがドカンと出てくる。食べた直後は必ず後悔するが、しばらくすると無性に食べたくなる、いわゆる病みつき系のこってり味であり、二郎に何度も通う人たちを「ジロリアン」と呼ぶなど、カルト的なファンが存在することでも有名だ。

ラーメン二郎三田本店のラーメン。2010年撮影。 Photo by Shijuukurou / CC BY-SA 3.0

一杯平らげるにはそれなりの気合と体力が必要なため、二郎での食事体験を「修行」と捉える人も多い。「もはやラーメンではない」「二郎という別の食べ物だ」と言い放つ人さえもいる。独自の味とスタイルを築いた創業者・山田拓美代表を慕った、インスパイア系と呼ばれる類似店舗も増加している。

新規店舗がオープンしても積極的に宣伝はしない、駅から遠い、店員は不愛想、常連が多くて肩身が狭い、メニューは少ない、注文方法や頼み方に独自のルールがある、もちろんヘルシー志向などとは無縁、などといった特徴があり、顧客ニーズに適合しようなどといった気配は微塵もない。

20~40代男性の5人に1人がジロリアン

しかしそれでも客足は絶えず、常に店内は満席、外には長蛇の列ができている。ちなみに自らもジロリアンだという牧田幸裕氏(信州大学)のフェルミ推定によると、ジロリアンは全国で105万人。これは首都圏20~40代男性の5人に1人に相当するという。

「お客様満足」を題目とする企業がこれだけ増えた今日、二郎の顧客を突き放すような姿勢は、ある意味爽快でもある。豚のゲンコツを煮出したフルボディのスープ、チャーシューは直方体、盛られた野菜はもはや円錐状態と、「これでいいのだ」という自信に満ち溢れた姿形を見れば、これがタダものでないことくらい誰にでもわかる。店側が一つの信念からつくり上げたモノを真剣にぶつけられたと感じた客側も、それに真剣に呼応せざるを得ない。この得体のしれない存在感と奥深さに畏敬の念を感じつつも、額に汗してそのラーメンを制覇することに、ジロリアンたちは喜びや生き甲斐さえ見出すのであろう。

採算を度外視しても最高級品を市場投入する

崇拝型のブランドにおいては、求道的な消費スタイルがより強く発揮される。むろん情報機器にしてもジャムにしてもラーメンにしても、誰もが簡単に楽しめる消費財にすぎない。しかしそれぞれの世界は奥深く、真の楽しみを知るためには、それなりの消費経験や知識が必要となる。その奥深さを小さな入口から垣間見せることが、崇拝型ブランドへのルートといえよう。

最近、マス向け消費財のメーカーにおいて、採算を度外視しても最高級品を市場投入するケースが相次いでいる。クリネックスティシューの「至高」「極」「羽衣」(日本製紙クレシア)、カルビー「かっぱえびせん匠海」、スターバックス「パナマ アウロマール ゲイシャ」、伊藤園「お~いお茶 玉露」などが代表例である。言葉で主張するのではなく、実際につくり上げた最高の商品で、自社の持つ技術の奥深さや、本気度、すごみを感じさせようとする狙いといえよう。コモディティ化が懸念される商品ジャンルにおいては、こうした形でブランド至高体験を提供していくのも、一つの選択肢である。