人がプログラムするのではなく、コンピュータが自ら学び判断する「ディープラーニング」が実現したことで、大勢の人間が失業する時代が10年後には現実のものとなりつつある。2人の識者に、これから「消える作業、残る仕事」について聞いた――。

悲劇的な未来を、なぜ想像するのか

「おはようございます。昨日はお疲れ様でした。素晴らしいプレゼンでした。ただ、商談相手は決定までに時間がかかるという分析結果です。そこで保留にしていたC社への営業を優先しましょう。今日はまず……」

今日は何をするか。スマホを通じて仕事の内容は随時、送られてくる。資料作成、顧客回りの移動記録、顧客との会話、そして健康状態などはすべてデータとなり、AI上司はこのデータをもとに、営業成績を上げるように、社員の個性、その日の体調に応じた行動を指示してくれる。

「監視されているようで嫌だ」と言う先輩もいるが、俺はそうは思わない。AI上司は依怙贔屓はしないし、ご機嫌をうかがう必要もない。仕事終わりに飲みに付き合わされ、自慢話や愚痴を聞かされることもない。


近い将来、AIとロボットが飛躍的に進化することで、20年以内に日本人の半数が仕事を失う可能性があるという予測がある。本誌でもたびたび、なくなる仕事を記事にしてきた。それでもまだ大げさだと思う人もいるが、最初にデジカメがヒットした1990年代半ば、誰が本気でコダックが倒産する時代が来ると予想しただろうか。そしてそのデジカメもスマホ普及の影響で今や出荷台数はピーク時の5分の1。驚くスピードで産業地図は激変している。

ハンドルもペダルもない完全自動運転車として話題を呼んだ「ウェイモ」の新型車。(共同通信=写真)

「仕事消滅が最初にやってくるのは10年後の2025年前後、自動運転車普及による日本国内の123万人のドライバーたちの大量失業でしょう」と語るのはITに詳しい経営コンサルタントの鈴木貴博氏。カルロス・ゴーン氏も今年の9月の記者会見で、「自動車産業はこの先10年で、過去50年よりも多くの変革を経験する。自動車産業を大転換させる革命が近づきつつある」と発言している。

自動運転車の普及で仕事を失うのはドライバーだけではない。例えば事故が大幅に減ると、自賠責保険だけで補償が十分になり、自動車保険業も消えるだろう。

「世の中には今のビジネスの仕組みだから必要な仕事がたくさんあります。AIにとって代わられる仕事よりも、その周辺の仕事がなくなるインパクトは大きい」(鈴木氏)

▼自動運転車普及のロードマップ
現在
ソフトウエアやセンサーによって、自動車や運転手の代わりに、駐車や適応走行制御(ACC)など、多くの機能が使えるようになる。
・短期(1~5年後)
2022年までに、ほとんどの車に周囲の物体を探知するカメラが搭載され、渋滞中でもACCが使えるようになる。
・中期(5~10年後
2027年までに高度なGPSとレーザーによる検知&測距テクノロジーで、他の車両を認識できるようになる。
・長期(10~20年後)
2037年までに、高速道路での自動運転が義務化される。人間が運転するのは細かい道だけになる。
・超長期(20~30年後)
2047年。自家用自動車がなくなり、無料で乗れる自動運転バスが運営される。また、富裕層向けに輸送サービス契約が始まる。
※『シグナル:未来学者が教える予測の技術』(エイミー・ウェブ/ダイヤモンド社)をもとに作成。