夏休み最終日、手つかずの宿題を片づけるため、驚くほどの集中力を発揮したことはないだろうか。そのメカニズムを、集中力に詳しい東京大学医学部卒のドクターに聞いた――。

最大の罠は「時間はまだある」

子どもの頃、夏休みの宿題を新学期直前までやらずに、青くなった経験はありませんか。親から「まだ終わってなかったの!? 早くやりなさい!」と尻を叩かれ、泣きながら最後の1日で仕上げたという人も少なくないでしょう。

医師能力開発コンサルタント 森田敏宏氏

なぜ夏休みの宿題を先延ばしにしてしまうのでしょうか。時間の制限があるとはいえ、夏休みは期間が非常に長いため、「パーキンソンの法則」の罠にはまってしまうからです。英国の歴史・政治学者のパーキンソンが「仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて使い切るまで膨張する」と指摘したように、「夏休みが終わるまでに終わらせればいい」と、時間はあればあるだけ使ってしまうものなのです。

人間の脳には、短時間だけ記憶する「短期記憶」と長期間にわたって記憶しておく「長期記憶」という機能があります。「短期記憶」は作業の手順の「段取り」を記憶します。作業をするときは、複数の作業の段取りを考え、それを短期間記憶し、順番あるいは並行して作業をこなしていきます。この段取りを考え、記憶し、段取り通りに実行する力を「ワーキングメモリー」といいます。そもそも人間の短期記憶は弱く、1度に覚えられるのは7つほどが限界といわれており、先延ばしにしている宿題の順位は低くなります。

ところが、夏休みも終わりになると頭の中は宿題以外のことを考える余裕はなくなり、宿題が最優先課題に浮上します。このため、宿題をやる気になり、集中できるようになるわけです。これは心理学で「締め切り効果」と呼ばれるもので、「この仕事は金曜日までに終わらせる」と区切りをつけ、時間の制限を設けたほうが集中力は上がるのです。

物事に取り組むにはやる気と集中力が大きく影響します。「締め切り効果」のように、追い込まれて集中力を高めるのではなく、自分で意図して集中状態に持っていければ、仕事でも余裕を持って自分のやるべきことができるようになります。