新幹線で「あわや大惨事」ともいえる重大なトラブルが起きた。乗務員は異常に気付いてから運行を止めるまで約3時間もかかった。「安全の優先よりも定時の運行を優先させた」との疑問が呈されている。新聞各紙の判断もわかれた。東京新聞がいちはやく社説で取り上げたのに対して、日本経済新聞が社説で論じたのはトラブル発覚から10日以上経過してからだった。これは安全軽視ではないのか――。
日本経済新聞の社説(12月23日付)。見出しは「新幹線の安全を守るために」。

新幹線で初の「重大インシデント」

年末年始、帰省や家族旅行で新幹線を使う方も多いだろう。その新幹線で大きな問題が起きていた。走行中の「のぞみ34号」(博多発東京行き)でトラブルが発生し、名古屋駅で運行をとりやめていた。JR西日本が12月12日、公表した。

車体と車軸を固定する鋼製の台車枠に亀裂が入り、台車から油漏れも見つかった。亀裂が進めば脱線し、乗客約1000人の命が危険にさらされる大惨事となる危険性があった。

このトラブルに対し、運輸安全委員会は12日、事故につながる恐れがあったとして新幹線で初の「重大インシデント」と認定した。当然である。

新聞各紙も原因の究明と再発防止を求める社説を掲載した。乗務員がのぞみ車内での異常に気付いてから運行を止めるまでに約3時間もかかっていたことを問題視し、「安全の優先よりも定時の運行を優先させた」と批判した。

大きなニュースだったが、新聞によって社説での扱いはわかれた。特に日本経済新聞は、トラブル発覚から社説掲載まで10日以上もかかった。しかもその内容は他紙と横並びで、遅れた理由はよくわからない。安全に関する各紙の認識がはっきりわかれた事例になった。

真っ先に社説で取り上げた東京新聞

全国紙以外では東京新聞がJR西日本の公表から2日後の12月14日付で社説に取り上げている。東京新聞の母体である中日新聞の地元、名古屋で起きたトラブル。それだけに東京新聞が真っ先に取り上げるのは当たり前といえば当たり前だろう。

この東京社説から見ていこう。

「新幹線が世界に冠たる鉄道システムと言われるのは、速さばかりでなく安全、正確な運行の積み重ねがあればこそ。その安全性への信頼が揺らぐトラブルである。原点たる安全最優先を徹底したい」

東京社説はこうお得意のリード(前文)でまとめる。見出しも「安全第一に緩みないか」である。

事故の背後には多くのトラブルがある

社説の前半から中盤にかけ、東京社説は「なぜ、亀裂ができていたのか。まずは調査を尽くし、経緯を解明する必要がある」と主張し、トラブルが起きた経緯を説明する。

それによると、トラブルを超したのは2007年に製造されたJR西日本所有の車両。今年2月には車両解体検査を受け、トラブル前日の目視点検でも異常はなかった。トラブルが起きた12月11日は午後1時15分ごろ、小倉駅発車時に乗務員が焦げたようなにおいを確認。岡山駅からは車両保守担当者も添乗し、うなり音も確認していた。しかし運行は継続された。新大阪駅でJR東海の乗務員に交代した後、京都駅付近で再び車掌が異臭を感じ、名古屋で床下が点検された。