「PDCAを回せ」。そうした言葉はよく聞かれる。だが、それはまっとうな指示といえるのか。同志社大学大学院の加登豊教授は「そうした指示を出す上司は極めて無責任だ」と指摘する。ビジネス現場に満ちあふれている「もっともらしい言葉」の問題点とは――。

PDCAがフィットする条件とは

今回の「一穴」=「PDCAを回す」という言葉が、よく使われている

本連載の初回タイトルは「日本企業を壊す“PDCAを回す”という言葉」だった。このタイトルを見て、違和感があった方は少なくないはずだ。そのような人たちに、安易に“PDCAを回す”という言葉を連発することの問題点を伝え、どのようにすれば経営管理サイクルが機能するかを考えてもらいたいと思っている。

「PDCAを回せ」。この言葉を聞いたことのない人はほとんどいないはずだ。説明する必要がないと思われるかもしれないが、ここでその意味をもう一度考えてみよう。

PDCAとは、P(Plan、計画),D(Do、活動),C(Check、比較評価),A(Action、是正措置)という動詞の頭文字をつないだものである。「計画(P)に基づいて活動(D)し、実績値を計画値と比較(C)し、両者間に乖離が生じていて対応策が必要な場合には、適切な是正措置(A)を取り、是正措置後に次の計画を策定する」という一連の経営管理プロセスを継続して行うことを意味している。「PDCAサイクルを回す」とは、上記の活動を継続実施することを意味する。

この説明の限りでは、PDCAサイクルを回すことは、経営管理の基本であり、何の問題もなさそうだ。PDCAと聞いて、図表1をイメージする人が多いだろう。しかし、この図が、実はくせ者なのである。

問題点は3つある。まず第1に、この図には時間軸が欠落している。第2に、PDCAのそれぞれの活動に担当する人は同一人物ではない。そして、第3に、2サイクル目に入る段階、つまり、AからPへのつなぎの部分について十分な配慮がないことである。

「PDCAサイクル」は、別名「デミングサイクル」とも言われる。つまり、この言葉は、品質管理の世界で生み出されたものである。デミングサイクルは、一定の条件下では、品質管理のような継続的な業務改善活動にフィットする。一定の条件とは、計画の修正が不要だったり、比較・検討と是正措置が極めて短時間で実行可能であったりする場合を意味する。