2018年のNHK大河ドラマは「西郷(せご)どん」だ。主人公の西郷隆盛は、「空前絶後の偉人」といわれる。その人格に磨きがかかったのは、通算5年間にも及ぶ「島流し」の時期だったという。人はつらく苦しい局面に立たされると、逃げ出したくなる。だが、そこで突き進めれば、人として大きく成長できる。西郷さんの生き方を、作家の城島明彦氏が解説する――。(第2回、全3回)

ビジネスマンの基本は「無私に徹する」「真心を尽くす」

“現代の経済界の西郷さん”ともいうべき鹿児島出身の稲盛和夫氏は、『人生の王道――西郷南洲の教え』の中で、41カ条ある西郷さんの遺訓を次の12のキーワードに分類し、そのトップに「無私」を挙げている。

(1)無私
(2)試練
(3)利他
(4)大義
(5)大計
(6)覚悟
(7)王道
(8)真心
(9)信念
(10)立志
(11)精進
(12)希望

無私とは「私利私欲を捨てること」である。次いで重要なのは「真心」だ。真心は誠意であり、昔の言葉でいうと「至誠」である。ビジネスマンの基本は、「無私に徹する」「真心を尽くす」の2つなのだ。さらにいえば、「利他」である。利他は「他を利すること」で、「相手にプラスになるように配慮すること」をいう。

西郷隆盛は、正義感が強い人だった。18歳で藩に出仕して郡奉行所に配属され、農民と接しているうちに理不尽な圧政がまかり通っていることに義憤を覚え、27歳のときに「農政意見書」を提出して藩主島津斉彬に注目され、「庭方(にわかたやく)」に大抜擢された。庭方役は「秘書兼密偵」のような仕事で、面倒な手続きを経なくても藩主のそば近くに自由に伺候でき、しばしば密命を帯びて極秘裏に水戸藩主の徳川斉昭、越前藩主の松平春嶽らと会い、意見を交換した。

そうやって着々と人脈を築きながら、強力なリーダーシップを発揮し、会津藩と手を組んで尊攘派の長州藩や公家を京都から追放。「薩摩に西郷あり」といわれるようになるのだ。西郷隆盛が並の人間と異なっていたのは、決して「上から目線」で人に接したり、傲慢な態度を取ったりせず、どんな相手にも真心を込めて相対した点だ。

新選組も隊旗に「誠」の字を入れていた。問題は、真心がこもっているかどうかだ。上司をいさめるときも同様である。真心は相手に通じる。西郷隆盛も吉田松陰も、「至誠」こそが人を動かすと信じた。江戸攻めを敢行しようとしていた西郷は、江戸決戦で江戸八百八町が炎上し灰燼に帰すことを懸念した幕府の代表勝海舟の呼びかけで会談し、「江戸城無血開城」を決めたが、それも互いの至誠が響き合ったからである。ビジネスの基本はこれだ。